初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 父と兄が死んだ――。
 それを聞かされたのに、悲しみも怒りも、なんの感情も沸いてこない。ただ、それを文字として受け止めるだけ。だが、信じられない気持ちもまだあった。
「君には利用価値がある。それに……、君は捨てられた身だろう?」
 色めく唇を舌でなぞる彼の姿に、背筋がぞくりとした。ここにいるアルヴィドはオネルヴァの知っているアルヴィドではない。
 となれば、やはり国王を討ったというのも嘘ではないのだろう。
「俺の言葉に抵抗しなければ、何もしない。黙って俺についてこい」
「は、はい……。着替えは……」
 返事をしただけなのに、その声は震えていた。それに、今は人の前に出るような相応しい格好をしていない。布の擦り切れた灰色のナイトドレスに身を包んでいる。
「そのままでいい。今は時間が惜しい」
 オネルヴァは彼の言葉に従い、身体の向きをかえて寝台から下りようとしたが、昼間に打たれた肩がじくりと痛む。
「うっ……」
 痛んだ肩を庇う。
< 4 / 246 >

この作品をシェア

pagetop