初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
妻子が可愛い夫と夫がよくわからない妻
 オネルヴァはすぐに部屋を案内された。
「ここが君の部屋だ。奥の扉は寝室に繋がっている。だが、俺と君は政略的な結婚だし、年も離れている。無理して向こうの部屋に行く必要はない。俺も自分の部屋で寝るから、君を求めるようなことはしない」
「承知しました」
「今日は疲れただろう。他の部屋は明日、案内する。今日は休んでいなさい」
「ありがとうございます」
 イグナーツからは、オネルヴァを気遣う様子が見え隠れする。
 彼は、静かに部屋を出て行った。
 一人残されたオネルヴァは、与えられた部屋をぐるりと見回す。淡黄色の壁紙、白い天井、天蓋付きの寝台にワイン色の長椅子。心が安らぐような部屋である。
 この屋敷には魔石を取り入れた道具が多い。この部屋の明かりの源も魔石だ。魔石に各人が持つ魔力を注ぎ込むと、魔石が本来の力を発揮する。
 例えば、この部屋にも魔石を用いた灯の魔石灯があるが、魔石灯に明かりを灯すためにも魔力を注ぎ込む必要があり、こういった生活に必要な道具に魔力を注ぎ込む行為を生活魔法と呼んでいる。
 だが、オネルヴァには魔力がない。だから、生活魔法が使えない。この魔石灯は、オネルヴァでは使えないのだ。イグナーツはオネルヴァが『無力』であることを知っているのだろうか。
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