初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 この屋敷の人たちは、みな優しい。
「お母さま、案内いたします」
 エルシーが小さな手を出してきた。困惑してヘニーに助けを求めると、手を繋ぐようにと言う。
「ありがとう、ございます」
 オネルヴァは彼女の手をきゅっと握りしめた。柔らかくて小さな手は、たちまちオネルヴァの心をぽかぽかと温かくする。
「エルシーは、こうやってお母さまと手をつなぐのが夢でした」
 屈託のない笑顔でそう言われてしまうと、オネルヴァは戸惑いすら覚える。
 ここにいていいのだろうか。なぜ彼らはこんなにも優しいのだろうか。
「お母さま。どうかしましたか?」
 エルシーが下から顔を真剣な眼差しで覗いてくる。
「あっ、いいえ。どうもしません。わたくしが、エルシーのお母様で、よろしいのでしょうか?」
 するとエルシーは茶色の目をくりくりっと大きく開いた。
「はい。エルシーはお母さまがよいです。お母さまはお父さまが好きな人、ですよね?」
 そう問われると、どうなのだろう。
 なにしろ、今日、初めて出会った相手だ。二人きりになったのも、先ほど部屋を案内されたとき。
「そうなると、よいのですが……」
 これから生涯を共にするのであれば、嫌われるよりも好かれたほうがいい。
「エルシーはお母さまのことが大好きです」
 真っすぐに言葉にされてしまうと、目頭が熱くなる。思わず、その場で立ち止まった。
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