初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「また、打たれたのか……」
 アルヴィドの声は、どことなく優しかった。彼は上着を脱ぐと、オネルヴァの肩にそっとかける。
「外は冷える」
 アルヴィドはそのまま彼女を抱き上げた。彼女の顔に触れている藍白(あいじろ)の髪を、片手で器用にさらりとはらう。
「君は……。相変わらず軽いな。食事はきちんととっていたのか?」
 上から降ってくる彼の声に、オネルヴァは頬を熱に包みながらコクリと頷いた。
 アルヴィドに抱かれたまま部屋を出る。
 カチャリカチャリと響く金属音が、オネルヴァの耳にはっきりと聞こえた。
「君には、隣国ゼセール王国に嫁いでもらう。まあ、いわゆる人質のようなものだな」
「わたくしでは、人質にならないのではありませんか?」
 それは人質になりたくないからこぼれた言葉ではない。オネルヴァには人質としての価値がないと思っているためだ。
「安心しろ。君は他の誰よりもその価値がある」
 アルヴィドはオネルヴァの言葉の意味をすぐに汲み取ったようだ。
「……ですが、わたくしは『無力』です」
「だからだよ。ゼセールではその力を欲している。君が向こうにいるかぎり、キシュアスとゼセールは良き関係を保てるだろう」
 くっくっとアルヴィドは喉の奥で笑った。それはこの状況を楽しんでいるようにも、悲しんでいるようにも見えた。
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