初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 オネルヴァがいつも寝る時間よりも、まだ早い。きっとイグナーツもそうだろう。
「旦那様もお眠りになりますか? 普段よりも、早い時間だとは思いますが」
「そうだな。エルシーが起きた時に俺たちがいないと、がっかりするだろう?」
 かさりと衣擦れの音がする。
「俺は、もう少し起きている。だが、寝るときはここに戻ってくる。オネルヴァはどうする?」
 オネルヴァにとっても寝るにはまだ早い時間ではあるが、この温もりが心地よく、これから抜け出すには相当の決意が必要だ。
「わたくしは、このままで」
「そうか」
 部屋を出ていく彼の後姿を、ぼんやりと見送った。


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