初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 だからイグナーツが彼女の白くてふわふわな胸を見てしまったのは不可抗力。
 顔を向けただけでその光景が飛び込んできたのだから、不可抗力以外のなんでもない。
 イグナーツは、自身の腹の上にあるエルシーの足をそっと捕まえ、ゆっくりとおろした。
「ん、んんっ……」
 エルシーからは愛らしい声が漏れて焦ってしまったが、目を覚ましたわけではなさそうだ。
 ほっと胸を撫でおろす。
 早くこの場から立ち去ったほうがいいだろう。エルシーがいるからと油断したのも事実。
 イグナーツが身体を起こすと、彼の重みによって寝台がギシッと軋んだ。
「ん……。おはよう、ございます……」
 眠そうな目をしょぼしょぼと瞬きながら、オネルヴァはイグナーツを見つめてきた。ばつが悪そうにイグナーツがエルシーに視線を向けると、オネルヴァも自分にくっついている彼女に気がつく。
 オネルヴァがはらりと零れている胸元に恥ずかしがるかと思っていたが、そうでもない。
「あら、エルシーったら。赤ん坊のようですね」
「すまない」
 なぜかイグナーツが謝罪の言葉を口にしていた。娘が彼女のそのような場所に触れているのが、申し訳ないという気持ちになっていた。
 だが彼女はさも気にしないかのように、ゆっくりとエルシーの手を引き離す。見えている乳房をあえて隠そうとはしない。
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