初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「おい。顔がにやけているぞ?」
 指摘され、イグナーツは頬をぺしゃりと叩き引き締めた。
「そういうわけだ。だから、結婚しろ。先のキシュアス王国との件、ご苦労だった。それの褒賞だと思ってくれればいい」
 いらぬ褒賞である。
「念のため言うが、私とではないぞ?」
 王はその冗談を気に入ったのだろうか。
「君の相手はキシュアス王国の元第二王女」
「もと?」
 キシュアス王国は、数日前に王が代わったばかりだ。それにはイグナーツもかかわっている。
「そう、前王の娘だな。現王には息子しかいない」
「前王の関係者は、全員、処刑したか修道院に送ったのではないのか?」
 王妃や王子妃などは、最も規律が厳しいと言われている国境にある修道院に送ったと報告を受けている。
「それに、前王には王子が二人と王女が一人。その王女も降嫁したはずでは?」
「さすがに知っていたか」
 そのくらい常識の範疇である。
「だがな、前王にはもう一人娘がいたんだよ。それが、君の妻となる人物だ」
 ゼセール王が目を細める。イグナーツも対抗して目を細め、睨みつける。
「俺の妻云々はおいておいて。もう一人の娘とはなんなんだ?」
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