結婚の条件
 約束の食事には、雰囲気の良いレストランを予約した。

 貴也は緊張しながら待ち合わせの駅に向かった。婚活パーティーから二週間が経っていて、明日香の顔をはっきりと思い出せなくて少し不安だったが、改札の隅に立つ明日香を一瞬で見付けた。目が合うと、彼女は口許を緩めて軽く会釈した。やはり綺麗な女性だ、と貴也は思った。
 そこから少し歩いてレストランに向かっている間に、貴也の緊張はすっかり和らいでいた。
 それは、自分以上に緊張している様子の明日香を目にしたからだ。


 テーブルに着き料理が運ばれてくるまでは、何となくぎこちない空気が漂った。

「趣味は料理なんです。勿論こんなに豪華なものは作れないですけどね」

 テーブルに並ぶ彩り良く美しく盛り付けられた数々の料理を前に、明日香が言った。

 料理が出来る女性は、貴也の理想だった。明日香は完璧な程に、貴也が結婚相手に望む条件を満たしていた。
 明日香が何故自分を食事に誘ったのか、貴也は気になって仕方がなかった。明日香程の女性であれば異性と食事に行くことなど珍しくないはずなのに、場慣れしているようには全く感じなかったし、それが演技とも思えなかった。そこへ少し照れたような素振りを見せられれば、男ならやはり期待を持ってしまうのは当然のことだ。

 店を出る頃になって、ようやく明日香の緊張が解れてきたことに気付いた貴也だったが、もう少し一緒にいたい気持ちを堪えて、明日香を駅まで送った。
 別れ際に一か八か「また会いたい」と伝えると、明日香ははにかんで頷いた。

 明日香の純真無垢な人柄に惹かれた貴也は、下心を抱いてデートに臨んだことに、良心の呵責を感じた。

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