結婚の条件
 それから数回デートを重ねて、貴也からの告白で正式に交際がスタートした。

 初めて訪れた明日香の部屋には、高価な家具や装飾品などはなく、シンプルで清潔感があり、慎ましい生活を送っている印象を受けた。明日香から溢れる上品さが、贅沢な暮らしをしているせいではないようで、貴也は安堵した。やはり交際相手とは価値観が近いことが望ましい。

 昼食時になり、貴也が「ご飯食べに行こうか」と声を掛けると、明日香は「簡単なもので良かったら作るよ」と言って冷蔵庫を覗いた。

「足りないものだけ買ってくるから、ちょっと待っててね」

 そう言うと、明日香は出掛けていった。
 すぐに戻るとはいえ、留守を預かった貴也は、自分が明日香から信用されている恋人である、と感じて喜びに満たされた。


「テレビでも観てのんびり待っててね」

 しばらくして買い物から戻った明日香は、そう言うとそのままキッチンに向かった。

 よくあるシチュエーションだが、そのフレーズにも、貴也は胸をときめかせた。


 明日香の初めての手料理は、ふわふわの卵がのっているオムライスだった。まるで店で出てくるような、デミグラスソースがたっぷりとかかったものだ。
「簡単なもの」と明日香は言ったが、あとはグリーンサラダとスープも用意されていて、充分贅沢な昼食だった。

 家庭的な明日香に、貴也は更に惹かれた。

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