Far away ~いつまでも、君を・・・~
それは彩にとって、今のところ、たった1つの淡く、切ない思い出。


高校時代の恋心は、自分からは誰にも漏らすこともなく終わり、大学に入っても、学業と部活に追われ、恋愛とはまるで縁のない青春の日々を過ごしていた彩に、それは突然訪れた。


「廣瀬。」


「あっ先輩。」


その日、試合会場である相手の大学のキャンパスを訪れた彩は、見知った顔に声を掛けられた。この大学に通う、高校弓道部での2年先輩、本郷斗真である。その横には、彼と同じ大学に通う恋人、そして彩にとっては1年先輩になる宮田由理佳の姿もあった。この時、彩は大学2年生、20歳になったばかりであった。


「ご無沙汰してます。」


「今日は廣瀬の大学が試合相手だって瀬戸(せと)から聞いて、お前に会えるんじゃないかと思ってな。」


「わざわざすみません、日曜なのに。」


「ううん。今日は久しぶりに彩の弓道が見られるって、斗真張り切ってたよ。もちろん、私も楽しみにしてた。」


「ありがとうございます。でも私はたぶん・・・。」


この日の練習試合、しかしレギュラ-に手の届かない彩の出場予定はなく、申し訳なさそうに俯く。そこへ


「おう、本郷来てたのか?」


との声がして、振り返ると、袴姿のスラッとしたイケメンが。


「今日は俺の応援か?」


「まさか、可愛い後輩が来るんでな。」


「そうか、君が廣瀬さんか。」


「は、はい。」


「俺は瀬戸大地(せとだいち)。君のことは、本郷からよく聞いてるよ。俺も由理佳も全く敵わなかったすごい後輩だって。」


「そ、そんなことありません。先輩たちが弓道を続けられていれば、たぶん私なんか足元にも及びませんでした。」


顔を真っ赤にしながら、彩は首を振った。


「でもこれで、颯天高校弓道部、歴代主将3人が揃い踏みじゃないか。」


「はい。」


「俺も実は、君たちと同郷でね。颯天高とも何回も試合をしたよ。本郷も宮田さんも、当時は俺より全然上の選手だったのに、高校ですっぱり弓道辞めちゃって。大学で再会して、ビックリして一緒にやろうって何度も誘ったんだけど、言うこと聞いてくれなくて、とうとう4年と3年になっちまった。」


「冗談じゃない。俺たちは弓道に追いまくられる青春なんて、もうまっぴらだったんだよ。」


「なんだよ、それ俺や廣瀬さんをディスってるのかよ。」


大地の言葉に、彩は思わず笑っていた。
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