Far away ~いつまでも、君を・・・~
結局、彩は試合に出ることはなかったが、斗真も由理佳も最後まで、熱心に観戦していた。


(斗真さんも由理佳さんも、やっぱり弓道が好きなんだな。だったら瀬戸さんの言う通り、大学でもやればよかったのに。)


その2人の姿を見て、彩は思っていた、そしてもう1つ、印象に残ったのが、相手校の大地の立ち振る舞いだった。


前年度、副将を務めていたという大地の所作は美しく、また射も正確であった。


(瀬戸さん、さすがだな・・・。)


彩は素直にそう思っていた。


試合が終わり、この日は現地解散だった彩は、斗真に誘われ由理佳、更には大地を加えた4人で飲んだ。


試合には出場しなかったが、試合前の練習に参加した彩の様子を、大地は見ていたようだった。


「大学に入って、パワ-の差を感じているのかもしれないけど、弓道は力じゃないからね。まして、女子はパワ-よりしなやかさというか柔軟さの方が武器だと思うから。もう少し、身体の力を抜いた方がいいんじゃないかな?」


他校の選手にも関わらず、そんなアドバイスをくれた大地に、彩は感謝の思いだった。その後は、大学生らしく賑やかに飲んだ4人。そしてその流れで大地と電話番号とLINEアドレスを交換した彩だったが、実際には連絡を取り合うことはないと思っていた。


ところが、その翌日の夜に、大地から電話が掛かって来た。


『昨日はありがとう。初対面にも関わらず、いろいろ偉そうなことを言ってしまった・・・。酒が入って、ついいい気分になってしまったみたいで、ごめんな。』


「いいえ、いろいろとアドバイスをいただいただけでなく、面白い話もたくさん聞かせていただいて、本当に楽しかったです。私の方こそ、ありがとうございました。」


思わぬ展開に、驚きながら、彩はそう答える。


『そう言ってもらえると嬉しい。それでさ・・・そちらの部はウチより厳しいのは、知ってるんだけど・・・もしよかったら、今度は2人で会えないかな?』


「えっ・・・?」


それはまさかのお誘い。固まってしまった彩に


『ゴメン。急にこんなこと言われても、困るよな。じゃ、明日からまた練習頑張って・・・。』


そそくさと通話を終えようとした大地に


「待ってください!」


彩は大声で呼び掛けていた。


「あの・・・是非よろしくお願いします。」


そして次の瞬間、彩はそう答えていた。
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