Far away ~いつまでも、君を・・・~
彩のもとに、麻美から是非、そちらで式を挙げたいという連絡が入ったのは、それから2週間後だった。本来なら、喜ぶべき連絡のはずなのに


「本当によろしいんですか?」


思わず聞き返してしまうと


『はい。よろしくお願いします。』


そう答えた麻美の声は、屈託なかった。


「かしこまりました。この度は、当ホテルをお選びいただいてありがとうございます。精一杯、努めさせていただきますので、よろしくお願いいたします。」


もはや、そう答えるしかなかった彩は、その後、初回打ち合わせの日程を決めて、電話を切ると、周りにわからないように、ため息をついていた。


それからは、何事もなかったように業務をこなし、定時で退勤した彩が、従業員通用口を出た時だ。


「彩。」


遠慮がちに自分を呼ぶ、でも懐かしい声。恐る恐るその声を振り返った彩の目に映ったのは、やはり・・・


「大地、さん・・・。」


何とも言えない表情で、こちらを見ているかつての恋人だった。目が合い、すぐに気まずそうに視線を逸らしてしまった2人だが、意を決したように


「今更だけど・・・久しぶり。」


と言いながら、大地が距離を縮めて来る。


「う、うん・・・。」


そんな大地の姿を見られず、俯いたままの彩に


「突然すまん。迷惑かもしれないが、どうしても君と話がしたくて、待たせてもらった。少し時間をくれないか。」


とかつてのように、優しい口調で、大地は言う。


「で、でも・・・。」


躊躇い、戸惑う彩。


「今日、俺がここに来て、君に会うことは、麻美も知ってる。」


「えっ?」


「だから・・・頼むよ。」


そう言って、頭を下げる大地に


「・・・わかりました。」


ようやく、彩は頷いた。


その後は、2人は近くの公園まで歩いた。かつてのように、寄り添うことはなく、彩は大地の少し後ろを、俯きながら歩く。その姿は今の2人の関係と距離感を見事に表していた。


やがて、きれいにライトアップされたベイサイドブリッジが目前に見える位置で、大地は足を止め、彩はその横に、遠慮がちに並んだ。


「きれいだな・・・。」


ポツンと大地が口を開いた。


「1度、一緒に見に来たことがあったよな。」


「うん・・・。」


「もう、4年前の話だ。」


そう言って、大地は微かに笑った。
< 109 / 353 >

この作品をシェア

pagetop