Far away ~いつまでも、君を・・・~
翌日の土曜日も、弓道部は練習。これは尚輝の時代から変わっていない。


(土曜日も練習なんてって、入部した当時は思ったもんだが、こうやって練習に立ち会う顧問も大変だったんだな。)


当時はそんなことは、慮ろうとすら思わなかったし、児玉も当たり前のように、熱心に指導してくれていたが、教師だって自分の時間は欲しいし、それに当時の児玉は、自分と違い、既に家庭を持っていた。それに休日出勤手当もあってないようなものだ。


(好きじゃなきゃ、務まらないよな。)


そう内心苦笑いしながら、しかし尚輝は今日も精力的に、部員たちを指導する。彼のアドバイスに耳を傾けながら、練習に励む生徒たち。その中でも葉山千夏の意欲的な姿勢は、やはり目を引いた。


以前、京香に


「葉山さんは、尚輝のタイプ、ど真ん中だもんね。」


と結構真剣な表情で言われたことがある。


「お前な、それ、彼女が言うセリフじゃないだろ。」


呆れ顔でそう返した尚輝に


「私は事実を言ってるだけ。別に他意はないよ。」


と言いながら、京香の口調は結構尖っていた。


おいおい、冗談じゃねえぜ、と尚輝は思っていた。確かに千夏に好意は持っているが、それは生徒として、部員としての千夏にだ。そう言い返すと


「そんなの当たり前。ムキになって反論して来るところが怪しい。」


「京香・・・。」


「とにかく変なことだけは考えないでよ。冗談じゃなく、人生終わるからね。」


と言われた時は唖然としたが、その言葉を口にした時には、京香は笑っていたから、真剣な話ではなかったようだ。


それにしても、他ならぬ恋人から、そんな釘を刺されて、焦った尚輝だが


(京香がそう感じたとしたら、生徒だって感じてるかもしれない。)


千夏に対する恋愛感情など、みじんもないことは断言できるが、期待しているのは事実だから、他の部員よりつい熱心に指導してしまってる可能性はある。いわゆる「えこひいき」という奴だ。こういうことに、特に女子は敏感だからと、尚輝は自分を戒める。


この日も昼食休憩をはさんで、6時間ほどの練習。


「ありがとうございました。」


礼をして、道場をあとにする千夏は、主将としての立場を捨て去り、同級生達と、帰りにどこに寄ろうかと楽しそうに話していた。


(彩先輩は主将になってからは、遥さん以外とは、あんまりつるんだりしなくなってたからな。まだ高校生なんだから、ストイック過ぎるのもな。)


千夏の笑顔を見ながら、尚輝は少しホッとしていた。
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