Far away ~いつまでも、君を・・・~
練習が終わり、部員たちを見送った尚輝。試験準備や採点、更には学期末に生徒たちに渡す通知表の準備と、このところ京香ともゆっくりデートをしている暇もなかったので、本来なら彼も一刻も早く学校を後にしたかったのだが、今日はこのあと、来客がある。


職員室に戻って、ひと息ついていると


「失礼します。」


と大声と共に入って来たかと思うと


「二階先生、ご無沙汰しております。本日はお疲れのところ、お時間をいただきありがとうございます。」


慇懃に頭を下げた人物。しかし態度とは裏腹に、表情をニヤつかせているその男に


「お前、なんの真似だよ。」


尚輝は戸惑いながら言う。


「そりゃ、二階先生と違って、出来の悪い生徒だった俺にとって、職員室に入るってだけで、相当なプレッシャ-なんだ。トラウマって奴だ、トラウマ。」


「何言ってんだ、ただ俺をからかってるだけだろう。」


「えっ、バレちゃった?」


そんな軽口を叩いているのは、木下倫生。尚輝にとっては、鮫島淳と2人しかいない高校弓道部の男子同期生。多くの同級生が卒業と共に、地元を離れる中、木下は数少ない残留組。尚輝とともに地元の大学に通い、今は父親が経営するコンビニエンスストアで、次期オーナ-としての修行の真っ最中。


そんな木下は今、地元に残った貴重な人材として、弓道部OB・OG会の最若手役員を務めている。恒例の会が、約ひと月後に迫り、今日は部活顧問として、会の運営にも携わる尚輝との打ち合わせの為に、久しぶりに母校を訪れたのだ。


事前に校長の許可を取っていた尚輝は、木下を生徒面談室に招き入れた。


今年もまずは母校の弓道場での試合から、近くのホテルに移動しての懇親会という大きな流れは変わらないが、年々OB・OGの数も増え、それに伴い参加人数も増えているため、弓道場での試合開催もなかなか難しいことが出て来ていた。スム-ズな運営に際しては尚輝や現役部員たちの協力は不可欠だった。


「俺は携わり始めてから、まだ2年目だが、本当にOB・OG達がこの会を楽しみに、また大切にしてくれてるのがよくわかる。出席出来る人も、出来ない人も、ほとんどが近況欄にコメントを書いてくれるし、ここのところ、部員が減少傾向で心を痛めていたが、また増えて来たそうで嬉しい限りだというコメントも多い。」


「そうか、それはありがたいな。」


木下の言葉に、尚輝は嬉しそうに頷いていた。
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