Far away ~いつまでも、君を・・・~
「そう言えば、我が颯天高弓道部中興の祖、二階尚輝先生にビッグニュ-スがあるんだけどな。」


「いちいち一言多い奴だな。それでなんだよ、そのビッグニュ-スっていうのは?」


「いよいよ初登場だぞ。」


「誰が?」


「かつてのお前のマドンナ、廣瀬彩さんが、卒業以来の沈黙を破って、OB・OG会に出席って、返事が来たぞ。」


ニヤニヤしながら尚輝に告げる木下。そんな木下の表情を少し見た後


「そうなんだ、久しぶりだな。」


と尚輝は普通に返す。


「あれ?思ったより反応薄いじゃねぇか。」


拍子抜けしたように言う木下に


「当たり前だろ。確かに懐かしいし、久々に会えるのは楽しみだが、だからと言って別にそれ以上のことはないだろ。」


尚輝は平静そのもの。


「へぇ、そんなもんかね。高校時代、あんなに彩さんにのぼせ上ってたって言うのに。」


「いつの話をしてるんだ。人間は齢を取る、成長もする。かつての、それも全く報われなかった恋にいつまでも捉われてても仕方がないだろ。」


「まぁ確かに、全く相手にされてなかったからな、お前。」


「うるさい。とにかく、現役の部員もいるんだ。当日はお前、京香のことを含め、余計なこと言うんじゃないぞ。なんか急に心配になってきたな。」


「安心しろ。俺は昔から口が堅いんで有名なんだ。お前だって知ってるだろう。」


「これまで生きて来て、今のお前のセリフほど、信憑性がない言葉を聞いたことない。」


「お前な・・・。」


最後は高校時代のノリになって、2人の打ち合わせは終わった。


木下を見送り、自身も下校した尚輝は、そのまま京香を迎えに車を走らせた。彼女の自宅に前で待つこと数分。


「ごめん、お待たせ。」


と助手席に乗り込んで来た今日は、いつものスーツ姿とは一変、可愛らしく着飾っていた。


「成績付け、やっと終わったよ。」


大学院生時代に、講師の経験はあるが、やはり生徒の評価付けに苦労しているようだった。


「美術は試験の結果だけじゃなくて、提出作品の評価も加わるからな。大変だよな、お疲れさん。」


「ありがとう。今日はご褒美にう~んと甘えさせてもらうから。」


「わかった、こっちも京香不足が深刻だから。毎日『菅野先生』の顔は見てても、それとは全く違うからな。」


「うん。」


顔を見合わせて、恋人と微笑み合うと、尚輝は車をスタ-トさせた。
< 117 / 353 >

この作品をシェア

pagetop