Far away ~いつまでも、君を・・・~
驚くことに


「学校の先生は、夏休みが長くて、羨ましいですね。」


と真顔で言う人が、たまにいる。確かに授業がなく、生徒が全員登校してくるわけではないから、普段よりは楽かもしれないが、部活動はある。


弓道部は連日練習だし、美術部も秋の展示会や文化祭に向けての作品制作の為に、生徒が登校してくる。運動部は合宿や試合遠征もある。普段多忙の中で後回しにして、たまっている訳の分からない報告書類もある。世間で思われているほど、のんびりしているわけではない。


そんな教員たちも、さすがにお盆時期は部活も休止となり、少しまとまった休日を取れる。この時期に帰省や家族旅行を計画する人も多いが、尚輝はそうはいかなかった。恒例の弓道部のOB・OG会が開かれるからだ。


OBとして参加していた、大学時代を経て、再び会の運営に携わることになった尚輝。すっかり大所帯となったOB・OGたちの為に、弓道場だけでなく、この日は体育館にも的を設置することになり、部員たちにも手伝ってもらい、準備に追われていた。


「私は去年、初めてOB・OG会に参加しましたけど、こんなに大勢の方がお見えになるになるのかって、ビックリしました。」


ひと段落し、生徒たちにペットボトルを振舞った尚輝に、千夏が声を掛けて来る。


「うん。ウチの部の歴史と伝統を感じるよな。」


「はい。そんな先輩方の前で、矢渡しをしなくちゃならないなんて・・・緊張してます。」


会の開始を告げる矢渡しは、その時の主将が務めるのが習わし。正直に不安を吐露する千夏に


「俺もあの時は、正直緊張した。だが、その時の主将しか務められない栄誉でもある。いつものように、真っすぐに的を見て、射貫くことだけを考えて行け。」


「はい。」


「その後の試合も盛り上がる。OB・OG連の中で、今も選手を続けてる人はそんなに多くはないが、それでも彼らの所作や射を見て、学ぶものはいっぱいあるはずだ。進行は大変だろうが、学ぶところはしっかり学ぶようにな。」


「わかりました。」


コクンと頷いた千夏に、尚輝は笑顔になる。


(葉山には、是非見てもらいたいOGがいる。あの人が現役を離れて、もう4年か。でもあの人の立ち振る舞いは、きっと葉山にはいい勉強になる。)


そんなことを考えていた尚輝自身、彼女との再会にふと、胸の高鳴りを感じていた。
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