Far away ~いつまでも、君を・・・~
会長の挨拶の後は、彩が知ってる進行通りなら、現在の部活顧問が挨拶と、本日の試合進行の説明をする。果たして、司会に促されて、マイクの前に立ったのは、すっかり大人の男になった「アイツ」だった。


「本日はお暑い中、多数のOB・OGの皆様にご参加いただき、非常に嬉しく、また心強く思っております。」


落ち着いた口調で、切り出した尚輝を、遠目に見た彩は


(尚輝・・・立派になったね。)


と思わず、親戚のおばさんのような感慨を抱いた。


そしていよいよ試合開始。弓道場に一度には入りきらない人数の為、矢渡しはこのまま体育館で。大勢の先輩に見守られる中、的の前に立ったのは、さっき彩たちを迎えてくれた葉山千夏だ。


「なんか、彩の時のこと思い出すね。」


「うん、正直あの時は、ある意味公式試合より緊張したから。」


彩と遥はヒソヒソ、話していると、緊張を隠せない表情のまま、しかし千夏は見事に的を射抜いて見せる。すると、先輩たちからは一斉に拍手が起こり、緊張から解放された千夏は、満面の笑みで一礼する。


(いい笑顔だな。それに、筋もいい。)


拍手を送りながら、彩はそんなことを考えていた。


試合は世代別対抗戦。参加人数にバラツキがあるので、全員の平均的中数で勝敗を決する、1人3射、2射をここ体育館で、そして移動して道場で1射。面倒だが、全員が道場で射を行うには、こうするしかなかった。


彩は体育館での2射は1中。


「彩が外すとは思わなかった。」


「仕方ないじゃん。本当に久しぶりなんだから。」


そんなことを話しながら、次は道場に向かう。


入口の前に立つと、体育館の時には全く感じなかった緊張がこみ上げてきて、彩は思わず足を止めた。


(いよいよ・・・だ。)


そして、1つ息を大きく吸った彩は


(よし!)


気合いを入れて、道場に足を踏み入れた。


「懐かしい・・・。」


思わず、そう口走っていた。そこには変わらぬ光景と空気があった。


様々な思い出や思いが一気に湧き上がって来て、彩が動けないでいると


「73期生チ-ムのみなさん、お待ちしておりました。」


という声が。審判を務めている尚輝だ。


「御覧のような状況で、後ろが詰まっております。お急ぎください。」


そう冗談めかして、入室を促す尚輝に


「失礼します。」


彩は一礼して、中に入った。
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