Far away ~いつまでも、君を・・・~
そこへ


「今日はありがとうございます。」


そう言いながら尚輝が近付いて来た。


「おぅ尚輝、いや二階顧問。すっかりご立派になって。さ、一杯どうぞ。」


尚輝が顧問に就任してから、初めて会に参加した町田が、冷やかし気味にビールを勧めるが


「先輩の盃をお断りするのも恐縮なんですけど、生徒の手前もあるんで。すみません。」


と本当に申し訳なさそうに尚輝は言う。


「もう、この会はお酒は控えめってわかってるでしょ。ごめんね、二階くん。」


フォロ-する遥に


「いえ、本当にすいません。それだけじゃなくて、せっかくご招待いただいたのに、結婚式伺えなくて。なにせ秋の新人戦にバッチリ重なっちゃったもんで。」


と更に恐縮する尚輝。


「それは仕方ないよ。」


そんな会話を交わしたあと、尚輝は彩の方を向いた。


「彩先輩、お久しぶりです。先輩の卒業以来ですね。」


「そうだね。」


彩は笑顔で頷く。


「やっと来て下さって、嬉しいです。」


「遥に今年はどうしても一緒に来ようって言われて、なんとか都合がついたからね。活躍は聞いてたよ。弓道部を立て直してくれて、ありがとう。」


「立て直すなんて・・・まだまだ先輩たちがやってた頃には、及びもつきませんよ。それに・・・彩先輩に褒められると、ちょっと変な気分です。」


「なんで?」


「だって、先輩からはダメ出ししか、された記憶ないから。」


「えっ?」


その言葉に、彩は思わず絶句し、周りの連中は吹き出す。


「そ、そうだったかな。だったらゴメンね。未来の弓道部顧問に失礼だったよね。」


少しバツ悪そうに言う彩に


「いえ、それがあったから、今の俺があるんです。むしろ感謝してます。」


尚輝は笑顔で言った。


「それに今日は、久しぶりに先輩の勇姿を見られて、本当に嬉しかったです。」


「そうだ、それで思い出した。あんた、葉山さん達にいろんなこと吹き込んで、随分ハードル上げてくれてたみたいだね。お陰で、すごい緊張した。私は現役離れてもう3年以上経つんだから、勘弁してよね。」


思い出したように文句を言い出した彩に


「すみません。でもやっと彩先輩らしくなった。」


頭を下げながら、一言返す尚輝。


「な、尚輝!」


「じゃ俺はこの辺で。まだ挨拶周りが終わってないんで。」


そう言うと、逃げるように離れて行く尚輝。


「2人の関係性は、やっぱり変わんねぇな。」


町田の一言に、また笑いが起きる中、彩はひとり、憮然としていた。
< 122 / 353 >

この作品をシェア

pagetop