Far away ~いつまでも、君を・・・~
そして迎えた予選当日。団体戦は1チ-ム6名(うち1名は補欠)。1人5射で計40射行い、その的中数で順位が決まる。県予選を勝ち上がれるのはたったの1チ-ム。


「ここまでくれば、後はやるだけだ。とにかく集中して行け、いいな。」


顧問の児玉の言葉に、彩たち選手は頷く。


「彩、しっかりね。2年生の代表なんだから。」


「ありがとう。精一杯やるから。」


遥の言葉に、そう答えた彩に


「彩先輩、頑張ってください!」


と尚輝も声を掛ける。


「ありがとう、でも私だけじゃなくて、チ-ムみんなを応援しなよ。」


「も、もちろんです。」


慌ててそう答えた尚輝にチラッと笑みを浮かべた彩は


「さぁ、行こう。」


という由理佳の声に頷いて、控室を出た。


(か、可愛い・・・。)


それを見送った尚輝は、珍しく自分に向けてくれた彩の笑顔に舞い上がる。


一方、部屋を出た彩たちに


「いよいよ出陣か?」


と掛けられた声。その聞き覚えのある声に、ドキリとしながら振り向いた彩は、そこに立っていた男子の姿を見て、息を呑んだ。


(せ、先輩・・・。)


立ち尽くす彩の横で


「斗真。」


と笑顔で声を掛けた由理佳を始め、選手達が、ワッと彼を取り囲んだ。


「先輩、来て下さったんですか。」


「ああ、お前達の晴れ姿を是非、応援したくてな。」


「エ~、私達は付け足しで、本当は由理佳の応援でしょ。」


「確かに、それが9割かな。」


そんな会話を交わしながら、盛り上がる選手達の輪から、彩は少し離れて、その交歓の様子を見ていた。男の名は本郷斗真(ほんごうとうま)、颯天高校弓道部OBで、由理佳の前任の主将。そして・・・。


「それじゃ、行って来るから。」


「ああ。会場で、見届けさせてもらうぞ。」


やがて、由理佳がそう言うと、斗真は頷いた。選手達が歩き出し、それに引き続いて、彩が目礼をしながら、斗真の前を通り過ぎようとすると


「廣瀬。」


と斗真が声を掛ける。


「は、はい。」


その声に、驚いたように斗真を振り向く彩。


「女子の2年生で代表、お前だけだってな。」


「はい。」


硬い表情で返事をする彩。


「緊張してるか?」


「は、はい。」


「まぁ、それは仕方がない。でもお前なら大丈夫、やれるから。」


「ありがとうございます。」


「しっかりな。」


その斗真の言葉に、ちょこんとお辞儀をすると、彩は仲間の後を追った。
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