Far away ~いつまでも、君を・・・~
(すごいドキドキしてる。)


試合会場に向かいながら、彩は思っている。しかし、それは試合を目前に控えた緊張だけが、理由ではない。久しぶりに斗真に会ったから。


彼が卒業して、まだ3ヶ月あまり。なのに、ちょっと見ない間に斗真は、一段と洗練され、一段とカッコよくなっていた。


(心臓バクバクしてる。でも、取り敢えず集中、集中。)


彩は自分にそう言い聞かせる。


会場に足を踏み入れる。既に試合は始まっていて、名前を呼び上げられた高校の代表が、次々に横一列に並び、矢を射って行く。


「颯天高校。」


そして、彩たちの高校が呼び上げられる。


「行って来い。」


児玉の声に頷いた由理佳以下の5名の女子チ-ムは、所定の位置につく。


「始め!」


審判の声がする、試合が始まる。会場には、選手を始め、審判、大会運営スタッフ、顧問以下のチ-ムメイトそして応援者、観戦者と何人もの人間がいるが、今は口を開く者は1人もいない。そんな中、5名の選手たちは準備をし、所定の所作を経て、順に矢を射って行く。


まず最初に矢を射ったのは主将の由理佳。その矢は、真っすぐに28m先の的に吸い込まれるように中る。次の瞬間、的中を知らせる声が会場に響く。それを見届けた由梨佳は、しかし表情1つ変えずに所定の所作で立ち膝で腰を降ろして、次の準備に入る。


続いて次の選手、その次の選手が矢を射っていく。そして5人目、唯一の2年生である彩の番になった。精神を集中して、そして構えて、力一杯弓を引く。そして放たれた矢の行方を見守ったが、的中の声は上がらない。


(落ち着け。)


焦って、いいことは何もない。自分のペ-スで射る、それを懸命に自分に言い聞かせる。


だが二矢目も外れた、背中に熱い視線を感じる。振り返る余裕は、今の彩にはない。ひょっとしたら、その視線は自意識過剰で感じてるだけかもしれない。たぶん、それは由理佳にその多くが注がれるのが、当たり前なのだから。そうはわかっていても、だが彩はその視線を意識してしまう、そしてその視線の注がれている先を、確認する勇気が出ない。


(斗真先輩に、みっともない結果は見せたくない。)


結局、そんな雑念が、心から追い出すことが出来ないまま、彩は三矢目の準備に入って行く。
< 15 / 353 >

この作品をシェア

pagetop