Far away ~いつまでも、君を・・・~
千夏はそのまま学校から姿を消してしまい、当然部活にも現れなかった。放置出来るわけもなく、尚輝は副将の佐伯美奈に練習を任せ、千夏の行方を捜した。


彼女の自宅に連絡してみると、既に帰宅していることがわかった。電話口に出してくれるように頼んでみるが


「明日はちゃんと学校に行くから、今日は誰とも話したくないし、会いたくない。」


と言って、部屋に閉じこもっているという。


『学校で何かあったんでしょうか?』


心配そうに尋ねてくる千夏の母親に


「部活のことで悩んでいるようです。ご心配をお掛けして申し訳ありません。どうか今日のところは、そっとしておいてあげてください。」


尚輝はそう答えるしかなかった。


その日の勤務が終わり、浮かない表情で車に乗り込もうとした尚輝に、先に退勤した京香からLINEが入った。いつものス-パ-で待っているから、夕飯を一緒に食べようとのことだった。


京香を拾い、少し離れたレストランに入る。オーダ-を済ませ、問われるがままに、恋人にこれまでの経緯を報告する。真剣な面持ちで、耳を傾けていた京香は


「そういうことか・・・。」


と言いながらため息をついて、尚輝を見た。


「葉山さんがずっとおかしかったのは、尚輝のせいだったんだね。」


「えっ、俺の・・・?」


キョトンとした表情で聞き返す尚輝に、京香はまた1つため息をついた。そして


「確かに、この間の大会で思うような成績を上げられなかったことが、葉山さんの変調のキッカケだけど、でも今の彼女を一番苦しめてるのは、はっきり言って尚輝、あなただよ。」


そう告げる。


「俺がなんで葉山を苦しめてるんだ?」


釈然としないと言わんばかりの尚輝。


「本当にわからないの?」


「わかんねぇから聞いてるんだろう!」


そう言って自分をにらむように見る恋人の顔を、京香は少し眺めていたが


「葉山さんは真面目だし、責任感も強い子だから、周囲の期待に応えられなかったことで、罪悪感みたいなものを、感じてると思うよ。でも今の彼女にとって、そんなことはある意味、どうでもいいの。」


「えっ?」


「今の彼女は、他でもない。尚輝の期待に応えられなかったことに、落ち込んでるの。尚輝の前で、無様な自分を見せてしまったことに苦しんでるんだよ」


「なんで?」


「葉山さんが、尚輝のことを好きだからに決まってるじゃない。」


「はぁ・・・?」


京香の発した言葉が、あまりにも意外で、尚輝は思わず間の抜けた声を出してしまっていた。
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