Far away ~いつまでも、君を・・・~
千夏が退部届を出したことは、弓道部に衝撃を走らせた。副将の美奈以下、彼女の同級生たちは、懸命に引き留めようとしたが


「ごめんね、みんな。今は弓を持つのが本当に怖いんだ。自分がこんなに弱かったなんて、我ながら情けない。でも、どうしょうもないんだ。許して。」


と言って、千夏は仲間たちに頭を下げ


「自分が逃げるのに、こんなこと言う資格ないけど、みんなは最後まで頑張って。弓道部のこと、よろしくね。」


そう言って、足早に立ち去ろうとする。


「千夏。」


そんな彼女を美奈が呼び止める。


「なんで、私たちの目を見てくれないの?」


「えっ?」


「なんで本当のこと言ってくれないの?」


「・・・。」


じっと自分を見て、問い掛けてくる美奈に、千夏は何も答えられずに俯く。そんな千夏を見た美奈は


「わかった。」


そう言ったあと


「本当に千夏が辞めるんなら、私も退部するから。」


と決然と言葉を続けた。


「美奈・・・。」


驚いたように顔を上げた千夏に


「あとをよろしくなんて言われても、私には無理だし。それに千夏がいない弓道部なんて、私には意味ないから。」


真っすぐ視線を向けたまま、美奈は言う。見つめ合うように向かい合う2人。やがて


「美奈、ごめんね。」


そう言うと、千夏は走り去って行った。


この後、美奈たちは、尚輝のもとに押しかけ、なんとしても千夏を引き留めて欲しいと詰め寄った。


「退部届は受理するつもりはない。俺ももう1度話してみる。」


そう彼女たちに約束した尚輝だったが、千夏に避けられ、現実には為すすべがない状態であり、顧問の尚輝に対する風当たりは、いよいよ強まり、苦境に立ったまま、2学期は終業式を迎えた。


冬休みに入ったが、弓道部は練習を続けていた。が、尚輝の態度に失望した部員の何人かが、部活に出て来なくなり、弓道部は機能不全の様相を呈し始めた。


(どうしたらいいんだ・・・。)


尚輝は苦悩に沈んだ。
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