Far away ~いつまでも、君を・・・~
翌日、正月2日の颯天高校は冬休み真っ最中で、もちろん部活も休みで、教職員も正月休み。校門も校舎も閉鎖され、本当に人っ子一人いない・・・のが普通。


しかしこの日、硬い表情をした葉山千夏が現れ、ピタリと閉じているはずの校門を動かすと中に入った。いつもと違い、人の気配が全く感じられない学校。今はまだ午前中で、日も高いというのに、なんとも言えない薄気味悪さを、千夏は感じていた。


(本当に来てるのかな・・・。)


半信半疑の思いを感じながら、通い慣れた弓道場に向かっていると


「葉山さん。」


と声が掛かる。その声にハッと振り向くと


「廣瀬先輩。」


道着姿の彩が立っていた。


「おはよう。来てくれたんだ、ありがとう。」


そう言いながら、笑みを浮かべて、近付いて来る彩。


「昨日、お約束しましたから。」


答える千夏の表情は硬いまま。


「さすがに校舎は開けてもらえなかったから、更衣室は使えないんだ。悪いけど、道場で着換えてくれるかな。」


「わかりました。あの・・・。」


「うん?」


「二階先生は・・・?」


不安な表情を浮かべて、尋ねる千夏に


「一回、帰ってもらった。本当なら、彼の責任でここを無理に開けてもらったんだから、彼にそのまま立ち会ってもらわなきゃいけないんだけど、私たちを信用してもらってね。」


彩はにこやかな表情で答える。


「そうですか。じゃ、着換えて来ます。」


「終わったら声を掛けてね。」


「はい。」


一礼して、道場に入って行く千夏を、彩は見送った。


そして待つこと、約5分。


「お待たせしました。」


道着姿になった千夏の合図で、彩も道場に入った。


「ごめんね、急に付き合わせて。」


「いえ、大丈夫です。お電話いただいて、びっくりしましたけど。」


昨夜、自宅の家の電話が鳴り、千夏が出ると


『葉山さん、わかるかな?颯天高弓道部OGの廣瀬彩です。』


との声が聞こえて来て驚いた。更に続いて


『突然でごめんなさい。明日、もしよかったら、高校の道場で、一緒に弓、引かない?』


唐突にそう誘われ、一瞬目を白黒させてしまった千夏だが


「はい、是非お願いします。」


次の瞬間、躊躇うことなく、そう答えていた。
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