Far away ~いつまでも、君を・・・~
中庭にある自販機で、お茶を2本買った彩は、1本を千夏に手渡す。


「ありがとうございます、いただきます。」


丁寧に頭を下げて、それを受け取る千夏。彼女のその礼儀正しい態度に、彩は好感を持つ。道場に戻り、長椅子に腰掛ける2人。冬の寒い時期、エアコンも掛かっていないのだが、さっきまで試合の余韻で、2人は全く寒さを感じていなかった。


「千夏ちゃんは、なんで弓道部に入ったの?」


「母が若い時にやっていて、その影響で。本当はもっと早く始めたかったんですけど、中学には弓道部なかったんで。」


「じゃ、満を持してたんだ。」


「そんなことはありませんけど、でもウチの高校を受験したのは、独立した道場があることも理由の1つでした。」


そう話す千夏の目は、輝いているように、彩には映った。


「千夏ちゃんは、本当に純粋に弓道に憧れて入部したんだね。私とは大違いだ。」


「彩さんはどうして入ったんですか。」


「たまたま部活見学に来た時、当時の主将に一目ぼれして。なんとかお近づきになれないかなって。」


「そうなんですか?彩さんこそ、すごい弓道に燃えて入部されたのかと思ってました。」


「とんでもない、滅茶苦茶下心ありの入部だった。」


驚きの表情の千夏に、彩は苦笑いを返す。


「でもさ、その人には、もうちゃんと彼女がいてさ。結局告白も出来ずに、ジ・エンド。こんなんなら、弓道部なんか入るんじゃなかったって、後悔したよ。」


「そうだったんですか。なんか意外です。」


「それでもなんとなく辞めそびれて、気が付いたら1年が経ってて、そしたら私と似たような奴が入って来てね。」


「えっ?」


「私は憧れの人を黙って見ていることしか出来なかったけど、そいつときたら、『あなたを口説く為に入部しました』って、最初からアピ-ルしまくって、振られても振られてもめげずにアタックし続けて、本当に何しに部活に来てるんだって、みんなに呆れられてた。でもさ、そんな奴が最後は主将になって、今や母校の教師になって、顧問として後輩たちを指導してるんだから、わからないもんだよね。」


驚いたように、彩の顔を見る千夏。
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