Far away ~いつまでも、君を・・・~
「勝手に好きになる、か・・・。」


千夏の言葉を、ポツリと繰り返した彩は


「千夏ちゃん、誰でもそうだよ。」


「えっ?」


「人を好きになる時は、誰でも勝手に一方的に好きになる。そこに許可なんかいらないし、誰にも止められない。まして、それを責めることなんて誰にも出来ない。」


「・・・。」


「でも恋って、ものすごく理不尽だと思うのは、いくらこちらが好きになっても、相手が同じ思いを抱いているとは、抱いてくれるとは限らないってこと。むしろその方が圧倒的に多いんじゃないかな。」


その言葉を聞いて、千夏は彩を見る。


「千夏ちゃんの辛い気持ち、わかるよ。だって、私だって、尚輝だって同じ気持ちを味わったんだから。まして千夏ちゃんは私たちと逆だもんね。」


「?」


「私たちは、恋を弓道が超えてくれたんだけど、千夏ちゃんは恋が弓道を超えちゃったから。だから、弓道から離れるしかなかったんだもんね。」


そう言って、千夏を見る彩の瞳は優しかった。


「私はたまたま何年か前に、あなたと同じ高校に通って、あなたと同じ部活をやってたってだけ。一応先輩ということになるけど、一緒にやってたわけでもないし、あなたのことをちゃんと知ってるわけでもない。」


「・・・。」


「そんな私だけど、一応はそれなりに弓道を頑張ってやってきたつもりだから、千夏ちゃんの可能性はすぐにわかった。その上話してみたら、素直で真っすぐで、弓道が本当に大好きなんだってことが伝わって来た。それに後であなたが、選手としても女性としても、私のようになりたいなんて、言ってくれたって尚輝から聞いて、身に余る光栄だって、本当に嬉しかったんだ。」


「彩さん・・・。」


「だから、しっかり指導してよって尚輝に頼んだのに、よりにもよって、アイツが千夏ちゃんを惑わすなんて・・・許せなくてさ。」


そう言って憤りを露にする彩に


「い、いえ。二階先生は私によくして下さいました。部活の顧問としてだけでなく、クラス担任としても面倒見てもらって、可愛がってもらって・・・それを私が勘違いしただけなんです。」


慌ててかばうように、千夏は言う。


「ううん、絶対に許せない。千夏ちゃんのような純粋な子をたぶらかして、教師の風上にも置けないよ。だいたい知ってる?尚輝はちゃんと彼女いるんだよ。」


「えっ、そうなんですか・・・?」


彩の暴露に、千夏は驚きの表情を見せる。
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