Far away ~いつまでも、君を・・・~
「そして、もう1つ。あなたを失って、窮地に立つ尚輝を助けたくて来た。アイツはあなたの恋人にはなれないけど、あなたを弓道選手として、きっと正しい方向に導ける指導者だと思う。そしてあなたが戻れば、空中分解寸前の颯天高弓道部は、もう1度立ち直って、歩き出せるはず。今の弓道部には、千夏ちゃんの力が必要なんだよ。」


そう言って、彩は千夏に頭を下げる。そんな彩の姿を、千夏は少し見つめていたが


「頭を上げて下さい。」


と静かに言った。その言葉に応えて、千夏の顔を見た彩に


「私、先生にも何度も頭下げてもらっちゃいました。そして今は彩さんにまで・・・何様なんでしょうね、私。」


そう言って、申し訳なさそうな表情を浮かべる千夏。


「本当はわかってたんです。このままじゃダメだって。私が退部届出したおかげで、尚輝っちが苦境に立たされてるのも知ってました。だけど、尚輝っちの顔見るの、やっぱり辛くて。どうやって接したらいいか、全然わかんなくて・・・。だから、逃げ回るしかなかったんです。」


「千夏ちゃん・・・。」


「でも今、彩さんのお陰で気が付きました。このまま尚輝っちと口きかないまま、弓を手にしないまま卒業するのは、やっぱり嫌だって。」


そう言った千夏は、今日初めて、笑顔になった。


「私、やっぱり弓道が好きなんだなって、改めて自分でよくわかりました。本当にありがとうございました。」


そう言ってペコリと頭を下げる千夏。


「よかった、千夏ちゃんが笑顔になってくれて。」


それを見た彩も、ホッとしたように笑顔になる。


「でも。」


「なぁに?」


「尚輝っち、許してくれるかな?」


「えっ?」


「だって、いっぱい迷惑掛けちゃいましたから・・・。きっと怒ってます。」


そう言って伏し目がちになる千夏。そんなことないよ、と彩が言おうとした時だ。


「そんなこと、あるわけないだろ!」


という声が飛んで来た。ハッと振り向いたふたりは


「尚輝。」
「先生。」


と同時に呼びかけていた。その声に応じるかのように、道場に入ろうとする尚輝に


「ちょっとあんた、いつからそこにいたのよ?」


「尚輝っち、立ち聞きなんてキモい。」


一斉に非難を浴びせるふたり。


「いや、そんなつもりはなかったんだけど、そろそろ道場閉めなきゃと思って・・・。」


そう言って、バツ悪そうな表情になる尚輝。
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