Far away ~いつまでも、君を・・・~
彩が足を運んだのは、校舎から少し離れた場所にある校内花壇だった。


そこには、生徒や教職員の有志達が手入れを怠らず、季節毎に美しい花々が咲き誇っている。その光景を見ることが、彩は好きで、なにかあると、ここに足を運んだ。


そして今、目にも鮮やかなアジサイの花々の前で、彩は1人、佇んでいる。


(それにしても・・・我ながら情けない。)


正直、ある程度の手応えと自信はあった。8射の内、少なくても半数、いやそれ以上の結果を出せるし、出さなければと思っていた。しかし現実は・・・。


試合独特の緊張感に、飲み込まれた面は確かにあった。しかしそれ以上に、斗真の来場に心乱した自分の不甲斐なさが、情けなかった。


(私、まだ吹っ切れてないんだ・・・。)


そんな自分の気持ちに、今更気付くのが、また嫌だった。


今から1年ほど前、高校に入学した彩は、部活見学を続けていた。本当に入りたかったダンス部が、なぜかこの年から休部となってしまい、他に何か打ち込める部活はないか。模索する日々だった。


そして見学期間も押し迫って来た頃、何の気なしに入った弓道場が、彩の運命を変えた。そこで目にしたのは、1人の男子が今まさに、矢を射んとして、所作に入ろうとしている姿だった。その彼の姿を見た彩の身体に、電気が走った。彩の視線は、彼に釘付けになり、そして立ち尽くした。射った矢が命中したの見届けて、一礼して射場を離れた瞬間の彼の笑顔に、またしても彩の身体に衝撃が走る。


(素敵・・・。)


その瞬間、彩の心は、弓道部主将本郷斗真に鷲掴みにされたのだ。そして彼女は、ためらうことなく、弓道部に入部を決めた。


だが・・・彩がその自分の決断を後悔するのに、大した時間は必要ではなかった。斗真の横には、寄り添うように1年先輩である宮田由理佳の姿があったからだ。憧れの主将には、自分がとても敵いそうもないくらい可愛くて、綺麗な恋人がいる。その可能性すら、全く考慮しなかった自分の迂闊さを、彩は呪った。


本気で退部を考えた彩が、結局思い留まったのは、それでも斗真の近くに居たいと思ったからだ。斗真と由理佳の、仲睦まじい姿に、何度も心折れそうになりながら、しかし彩は弓道に打ち込んだ。斗真に自分の存在に気付いてもらいたい、斗真に褒めてもらいたい、その一心からだった。
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