Far away ~いつまでも、君を・・・~
挙式の閑散期に当たる1月期のプランナ-にとって、大切な仕事は、先を見据えた種まき。式場の多くが、半年に1度の大規模なブライダルフェアを開催。そこにお客を呼び込み、成約を取るために、その準備にかなりの精力を注ぐことになる。


ホテルベイサイドシティでも、内部で「スペシャル」と通称されるその大規模フェアに向けて、多くのスタッフが動いていたが、その中で彩は、スペシャルの翌日に担当の式を控えている為、今回はメインのスタッフからは外れる形になっていた。


その担当の式の新郎新婦、瀬戸大地と鯉沼麻美とは、既に数度の打ち合わせを重ね、式の2週間前の今日、最終打ち合わせを迎えていた。


大地と話し合った末に引き受けた、今回の式ではあるのだが、いざ打ち合わせを始めると、複雑な思いが浮かんでくるのは、やはり避けられなかった。大地も恐らくそうだったろうが、その一方で新婦の麻美は、2人の心境など知らぬげに、自然にふるまっているように、彩の目には映った。


そんな麻美のペースに引っ張られるように、彩も回を重ねる毎に、特別な意識を持たず、お客様の中の1組として、彼らと接せられるようになって行った。


そして今日は、これまでの打ち合わせの集大成。当日の流れの確認から始まる、全体の内容の最終チェック。そこで問題がないことを相互に確認したあとに、彩は今回の式の最終見積もりを提示した。


「当初にお出ししたお見積りと、若干のオプションの追加が生じた他は、大きな変更はありません。ご確認をお願いします。」


そう言って、彩が提示した紙を、手に取り、目を通した大地と麻美は、やがて頷き合うと


「これで結構です。よろしくお願いします。」


大地が、彩を真っすぐに見て、返答する。


「かしこまりました、ありがとうございます。」


それを受けて彩が2人に頭を下げた。


「それでは、この後は、当日の進行を担当する司会者との打ち合わせになります。ただいま呼んで参りますので、少々お待ちくださいませ。」


そう言って、彩はいったん席を立った。


少し経ってから始まった打ち合わせ。2人が指名した司会者は、彩もその堅実な仕事ぶりに、かねて信頼を寄せている40代のベテランの女性で、場は和やかな雰囲気に終始した。


全てが終わり、出口まで司会者と共に見送った彩は


「それでは、当日お待ちしております。それまでに、何かございましたら、ご連絡をいただければと思います。」


「わかりました。廣瀬さん、当日はよろしくお願いします。」


「はい、かしこまりました。」


ニコニコと笑顔の麻美に、うやうやしく一礼する彩。仲睦まじく、ホテルを後にする2人を見送りながら


「今回の新婦さん、ずっとニコニコされてて、好感が持てますね。」


と話し掛けて来た司会者に


「はい、ずっとあんな感じで、本当に式を楽しみにされてることが、伝わって来ます。私たちもいつものことですけど、精一杯務めないといけませんね。」


彩はしっかりとした口調で答えていた。
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