Far away ~いつまでも、君を・・・~
⑯
中間考査が終わると、颯天高弓道部の練習は、一段と熱を帯びて来た。
高校弓道部にとって、最大目標と言っても過言ではない夏のインターハイの予選会が、迫って来たからだ。
インターハイは多くの高校スポーツ部にとって、1年の集大成であり、また3年生にとっては、青春の1ページに1つの区切りを付ける時となる。
かつて、自身もそれを体験し、また今、指導者として、教え子たちとその時を共有することになった尚輝。
部内の選手選考も終わり、ラストスパートに入った、その日の練習を見届けた尚輝は、校内花壇に回って、昼間時間が取れずに後回しにしていた水やりを行う。
(もうすぐだなぁ。)
今はアジサイの花の鮮やかな色どりが、尚輝の目に飛び込んで来る。梅雨の合間の晴れ間、この時期に、こうしてここにいると、ふと甘酸っぱくも切ない思いが甦って来る。
「先生。」
そんな尚輝の感慨を打ち破るかのように声がする。振り返るまでもなく、この声の主が分かった尚輝は
「お疲れ、葉山。」
と笑顔で声を掛ける。
「お疲れ様です。」
千夏の方も笑顔で、尚輝の横に並んだ。
「帰らなかったのか?」
「うん、尚輝っちがここにいると思ったから。」
「おい、尚輝っちは面と向かっては、もうよせって言っただろう。」
「いいじゃん、他に誰もいないんだから。」
「誰もいないから、余計よくないんだろ。」
たしなめられて、でも千夏の方はエヘヘといった風情で、あまり堪えていない。
そう言えば、あの正月の出来事以来、こうして一対一で話す時は、千夏は敬語を全く使わなくなった。今どきの女子高生らしいのかもしれないが、目上目下のケジメにうるさい尚輝が、それに文句を付けないのは、やはり千夏には少し特別な感情があるからかもしれない。
「聞きたかったんだ。」
「何を?」
「今日の私の練習、どうだった?」
「ああ、よかったぞ。」
「本当?」
「本当だよ。今更、お前に嘘をついても仕方ないだろう。」
主将であり、また自ら優勝宣言までしている千夏の、このところの練習中の集中力はやはり素晴らしいものがあると、尚輝は素直に感心していた。
「よかった。厳しくやるぞって言われたのに、尚輝っち、このところなんにも言ってくれないから、ちょっと不安になった。」
「何も言わないのは、今の葉山に俺が言うことが何もないからだよ。」
ややふくれっ面で言った千夏に、尚輝はそう答えて笑った。
高校弓道部にとって、最大目標と言っても過言ではない夏のインターハイの予選会が、迫って来たからだ。
インターハイは多くの高校スポーツ部にとって、1年の集大成であり、また3年生にとっては、青春の1ページに1つの区切りを付ける時となる。
かつて、自身もそれを体験し、また今、指導者として、教え子たちとその時を共有することになった尚輝。
部内の選手選考も終わり、ラストスパートに入った、その日の練習を見届けた尚輝は、校内花壇に回って、昼間時間が取れずに後回しにしていた水やりを行う。
(もうすぐだなぁ。)
今はアジサイの花の鮮やかな色どりが、尚輝の目に飛び込んで来る。梅雨の合間の晴れ間、この時期に、こうしてここにいると、ふと甘酸っぱくも切ない思いが甦って来る。
「先生。」
そんな尚輝の感慨を打ち破るかのように声がする。振り返るまでもなく、この声の主が分かった尚輝は
「お疲れ、葉山。」
と笑顔で声を掛ける。
「お疲れ様です。」
千夏の方も笑顔で、尚輝の横に並んだ。
「帰らなかったのか?」
「うん、尚輝っちがここにいると思ったから。」
「おい、尚輝っちは面と向かっては、もうよせって言っただろう。」
「いいじゃん、他に誰もいないんだから。」
「誰もいないから、余計よくないんだろ。」
たしなめられて、でも千夏の方はエヘヘといった風情で、あまり堪えていない。
そう言えば、あの正月の出来事以来、こうして一対一で話す時は、千夏は敬語を全く使わなくなった。今どきの女子高生らしいのかもしれないが、目上目下のケジメにうるさい尚輝が、それに文句を付けないのは、やはり千夏には少し特別な感情があるからかもしれない。
「聞きたかったんだ。」
「何を?」
「今日の私の練習、どうだった?」
「ああ、よかったぞ。」
「本当?」
「本当だよ。今更、お前に嘘をついても仕方ないだろう。」
主将であり、また自ら優勝宣言までしている千夏の、このところの練習中の集中力はやはり素晴らしいものがあると、尚輝は素直に感心していた。
「よかった。厳しくやるぞって言われたのに、尚輝っち、このところなんにも言ってくれないから、ちょっと不安になった。」
「何も言わないのは、今の葉山に俺が言うことが何もないからだよ。」
ややふくれっ面で言った千夏に、尚輝はそう答えて笑った。