Far away ~いつまでも、君を・・・~
その日の勤務が終わり、通用口から出た彩は、思わずフッとため息をついた。


(疲れた・・・。)


確かに日々の業務は忙しい。だが、今の彩に疲れを感じさせているのは、相川静の存在だった。


教育担当として、静の面倒を見始めて2ヶ月余り。「期待の大型新人」の触れ込みで、ブライダル課に加入した静に、彩は振り回され続けている。


確かに思わぬ欠員が出、少しでも早く静に独り立ちして欲しい現在の状況。それは彩にもわかってはいるが


(物事は、いきなり1から3に進むことはない。)


つまり、いきなり「飛び級」のように、人が成長していくことなんて、滅多にあるものじゃない。それが彩の考え方だ。


確かに静は、全く未経験の新人ではない。そういう自分にある程度、自信を持ってるようだし、早い独り立ちを期待されてることを肌で感じてるようだ。


しかし、今の彼女が持っている知識は学生として学んだものが、まだほとんどだし、実務経験もバイトとして得た以上のものではない。


「私達は、ホテルに所属している以上、ウェディングプランナーである前に、まずホテリエなんだから、そのスキルを身に着けない限り、先には進めないよ。」


という彩の言葉を、静は素直に受け入れることが出来ないらしい。


それだけでなく、他部門からプランナーに転身した彩を軽く見てる節がある。


先日も問い合わせに来場したカップルへの接客対応を終え、事務所に戻ると


「彩さんは押しが弱すぎますよ。だから成約がなかなか取れないんじゃないですか?」


と面と向かって言われた。強引な営業は百害あって一利なしというのが、彩のモットーなのを知っている周りのプランナーたちは、思わず彩の顔を見てしまうが


「そう。それは静と私の見解の相違だね。」


彩は軽く受け流した。しかし、その右手はギュッと握り締められていた。


「彩、ゴメンね。あの子の教育担当、外そうか?」


課長からはそう言われたが


「いえ、大丈夫です。あの子じゃ、誰が付いても同じです。だったら、私が最後まで付き合います。」


半ば意地、半ば他の人に迷惑をかけたくないという気持ちで答えたものの、そろそろ忍耐の限界を感じ始めてもいた。
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