Far away ~いつまでも、君を・・・~
(なにが静よ。名は体を表わさない典型例じゃない。)


内心で、そんな子どもじみた悪態をついてしまう自分が嫌になるが、ストレスも半端ない。


(なんか美味しいものでも、食べて行くか。)


憂さ晴らしにそんなことを考えるが、遥は遠くに行ってしまい、優里は部署が離れ、結局はおひとり様。


(あ〜ぁ、でもいい。お肉食べてこ。)


このまま、真っ直ぐ帰って、1人コンビニ弁当をつつき、ヤケ缶ビールでは、あまりにも悲し過ぎる。


彩はたまに贅沢をしたい時に寄る、ステーキハウスに向かった。


ディナーコースは当然、それなりの金額を取られるが、今日はもういい。ちょっと高めの赤ワインも頼んで、なんとなくワクワクしていると、LINEの着信音がする。


見ると、木下からの、昨日のインハイ予選の結果報告。もう、そんな時期かと思いながら開いてみると、葉山千夏が個人戦、インハイ出場にわずかに及ばずの3位。先輩の記録を抜きましたとの連絡だった。


(えっ、凄い!)


自分の記録が抜かれたことなど、全然気にならずに、ただただ驚き、そして我が事のように嬉しくなった。


木下、更に尚輝に祝福のLINEを送り、千夏には食事が終わったら、直接電話して祝福しようと、とにかくテンションが上がった。


(やっぱりいいなぁ、弓道は。私も久しぶりに弓引きたい。)


そんな思いにかられていると、ふと聞き覚えのある声が。


振り向くと


(斗真先輩・・・。)


かつての憧れの先輩の姿が。だが次の瞬間、彩が彼から思わず視線をそらしたのは・・・彼の横にいた女性が、由理佳ではなかったからだ。


(えっ、どういうこと・・・?)


戸惑う彩。


大地の結婚式をドタキャンしてから数日後、斗真から電話があった。


迷惑を掛けたと、携帯越しに頭を下げてるらしい斗真に


「私の方は全然大丈夫です。それよりお仕事大変ですね。」


と答えた後、お節介かなとは思ったが、由理佳が訴えていた不安と不満を彼に伝えてみた。


『わかった。一回、由理佳とはちゃんと話してみるよ。廣瀬、ありがとうな。』


明るい声で、そう答えると斗真は電話を切った。


以来、斗真からも由理佳からも、なんの連絡もなく、彩はすっかり落ち着いたのだとばかり、思っていた。なのに今・・・。


動揺している彩には、全く気付くことなく、斗真はその女性をエスコートするように腰を抱きながら、奥の席に消えて行った。
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