Far away ~いつまでも、君を・・・~
(なんなの?あれ・・・。)


それから彩は、ドキドキが止まらず、せっかくのステーキもワインも、楽しむ余裕など、全くなくなってしまった。


(私、見てはいけないものを見ちゃったってこと・・・?)


早いもので、高校の部活見学で、斗真に一目惚れしてから、10年の月日が経った。


その間、斗真の横には、いつも由理佳がいた。羨ましかったし、嫉妬だって、何度もした。


だけど、悔しいけど、2人は似合い過ぎるほど、お似合いのカップルで、2人の間に、入り込む隙間なんて、どこにもない。いつしか彩は、そう思うようになった。


だから、斗真の横に、由理佳以外の女性の姿があることなど、考えてみたこともなかった。


だけど今・・・あれは見間違いでも幻でもない、確かな現実だった。


(どうしたらいいの?・・・。)


キッチンの前のカウンター席。目の前で、シェフが丹念に焼き上げたステーキをしっかり、口に運びながら、しかし、彩は心、ここに非ずの状態だった。


せっかくの自分への贅沢のつもりのご馳走も、ゆっくり味わうような心境ではなくなり、なぜか居心地の悪い思いをした挙句、最後のコ-ヒ-を待ちかねたように飲み干すと、そそくさと席を立った。


(なんで、私がこんなに浮足立ってるんだろう・・・。)


自分でも思わず首をひねる。このまま早々にここから立ち去りたいという心理と、ちゃんと真相を確かめなきゃという思いがごちゃ混ぜになって、逡巡すること、どのくらい経ったろうか。


(帰ろう・・・。)


由理佳に申し訳ない気持ちを抱きながらも、真実を追求する勇気も出ず、彩が歩き出そうとした時だ。


レストランの扉が開き、例の2人が寄り添いながら出て来た。とっさに身を隠そうとしたが、間に合うはずもなく、彩は固まり、斗真も明らかに表情を変えたが、すぐに何事もなかったかのように、歩き出す。


その様子は「親密」としか言いようがない。


(斗真先輩・・・。)


2人の後ろ姿を見送りながら、彩は茫然と立ち尽くしていた。
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