Far away ~いつまでも、君を・・・~
結局、我に返った彩が、その場を離れようと歩き出すのに、数分の時間を要することになった。


(証拠写真を撮るべきだったのかな・・・?)


そんなことを思いながら、ふらふらと歩いていた彩は、少しして、またギクリとしながら、足を止める。目に入ったのは、件の女性がタクシ-に乗り込むのを見守り、やがてタクシ-が動き出すと、深々と頭を下げて見送る、斗真の姿だった。


それは恋仲の男女の別れのシーンとしては、明らかに違和感があった。頭の中がいよいよ混乱してきて、再び固まる彩。すると、見送りを終えて、後ろを振り返った斗真の視線と重なり合う。


彩の姿を認めて、やや苦笑気味の表情を浮かべた斗真がゆっくりと近づいて来る。何も言えずに、その姿を見つめるだけの彩。


「よぅ。」


ぎこちなく自分を見ている彩に、斗真は声を掛ける。


「まさか、こんな所で廣瀬と会っちゃうとはな。」


「・・・。」


「お世話になってるクライアントのお嬢さんなんだ。」


説明するように言う斗真に


「由理佳さんはご存知なんですか?」


問い返す彩の表情は固い。


「そんな怖い顔するなよ。」


そう言いながら、再び苦笑いを浮かべる斗真。


「大切なクライアントの娘さんだから、無下にも出来ないだろう。まぁ接待みたいなものだよ。」


「・・・。」


「ウチの娘はどうだ?クライアントにそういう意図があることくらい、もちろん承知だ。自分の娘を薦められるくらいに信頼してもらってるとしたら、正直ありがたい話さ。」


「で、でも・・・。」


平然とそんなことを言う斗真が、彩には信じられない。だが、非難の言葉を発しようとする彼女を遮るように


「それに、俺がどの女性と会おうと、食事をしようと、もう由理佳に後ろめたさを感じる必要もないんでな。」


斗真は続ける。


「それ、どういう意味ですか?」


何を言ってるんですかと、言わんばかりの彩に


「これはほとんどまだ誰も知らない、最新のホットニュースだが・・・。」


と前置きした後


「由理佳とは別れた。」


斗真は、ハッキリと彩に告げた。


「えっ・・・。」


あまりの衝撃発言に、言葉を失う彩に


「俺たちは・・・終わったんだ。」


ダメを押すように、斗真は言った。
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