Far away ~いつまでも、君を・・・~
改めてどこかの店に入る時間もなく、成り行きでそうなってしまったが、立ち話で聞くには、あまりにも重い内容だった。


話を聞いて、しかし言うべき言葉が見つからず


「無理はしないで下さいね。」


そんな当たり障りのない言葉を掛けて、彩は斗真と別れた。


(斗真先輩と由理佳さんが別れたんだ・・・。)


知り合った時から、既に恋仲だった斗真と由理佳。1つの光景が思い出される。


桜舞い散る校門で、斗真は卒業式を終えた由理佳を穏やかな表情で出迎えた。そんな斗真の姿を認めて、満面の笑みで駆け寄る由理佳。見つめ合い、やがて舞い散る桜吹雪の中を寄り添って歩いて行く2人の姿を、まるでドラマのワンシ-ンを見るような思いで、彩は見送った。


今からもう10年近く前の忘れ得ぬ出来事、あの時、彩は自分の恋が完全に終わったのだと自覚した。


以来、そんな2人が、やがて結ばれ、幸せな家庭を築くことになると、彩は何の疑いもなく、そう信じて来た。それだけに、先ほど斗真に聞かされた現実に、彩は驚くほかはなかった。


(こういうのを、長すぎた春って言うのかな・・・。)


帰りの電車に揺られながら、彩はそんなことをボンヤリと考えていた。


翌日。季節はジュ-ンブライド真っただ中、今週末は土日両日とも、担当の式が控えていて、関係部署や取引先との打ち合わせは目白押し。この日は静は休日で、ストレスの根源から解放された彩は、ショックなことを聞いて、沈みがちになる気持ちを吹き飛ばすかのように、精力的に仕事をこなした。


その日の自分の仕事ぶりに、充分満足して、家路についた彩。通用口を出て、いつものようにスマホを取り出してチェックすると、LINEが入っている。


(由理佳さん・・・。)


発信者を確認して、途端に気が重くなるが、無視するわけにもいかず、彩はメッセ-ジを開く。


『突然だけど、今日これから会えないかな?』


それは予期出来た内容。


(なんか巻き込まれちゃったな・・・。)


思わずため息が出る。が、結局は


『大丈夫です。』


と先輩に返事していた。
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