Far away ~いつまでも、君を・・・~

梅雨が明け、夏本番がやって来た。


この日、颯天高は1学期の終業式を迎えていた。


「いよいよ夏休みだ。このクラスは、ほぼ全員が進学を希望している、受験生にとってこの夏休みが、どんな意味を持つか、既に高校受験を経験しているお前たちには、今更言うまでもないと思う。俺はガリ勉主義じゃないが、今日だけは言わせてもらう。お前ら、この夏は死ぬ気で、脇目も振らず、ひたすら勉強しろ。半年後、夏休みにもっと頑張っておけばよかったなんて、後悔だけはしないように。じゃ、9月にまた会おう。」


全員に通知表を渡し終えたあと、そう呼び掛けると、尚輝は教壇を降りた。


「ねぇ千夏、ちょっとお茶して帰らない?」


「ダメダメ。美奈、さっきの尚輝っちの話、聞いてなかったの?今の私たちは勉強あるのみ。」


「それはわかるけどさぁ、ちょっとくらいいいじゃん。」


「その油断が命取り。さ、行くよ、お昼ご飯ちゃっちゃと済ませたら、あとは自習室にGOだよ。」


「わかったよ、主将は引退しても厳しいなぁ。」


そんな千夏と美奈の会話が耳に入って、尚輝は吹き出しそうになる。


インハイ予選個人3位という、颯天高弓道部史上最高成績を置き土産に、部活を引退した千夏は、その後は完全に受験モードに切り替え、先の学期末考査の結果も上々であった。


「このままなら、志望校には間違いなく合格できる。油断せず、引き続き頑張ってくれ。」


先日の三者面談で、尚輝がそう太鼓判を押すと、千夏は嬉しそうに


「はい。」


と頷き、横の母親もホッとした表情だった。そんなことを思い出しながら、職員室に向かっていた尚輝に


「先生、じゃ失礼します。次はOB・OG会の時に。」


美奈と肩を並べて追いついて来た千夏が声を掛ける。


「ああ。2人とも忙しいところ悪いが、弓道部員としての最後の行事だ。よろしく頼むな。」


「はい。」


そう答えて去って行く2人。


(今の葉山には、何の迷いもない。ただ目標に向かって、努力するだけだって。アイツの集中力は大したもんだ。)


彼女たちの後ろ姿を見送りながら、尚輝は思っていた。
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