Far away ~いつまでも、君を・・・~
3か月の試用期間が終わり、正式にベイサイドシティブライダル課に配属された相川静は、その後も彩の下で、プランナ-としての研修を重ねていたが、課長の判断で8月から独り立ちすることになった。


「課長のご判断に口を挟むようですが、はっきり言って、まだ早いと思います。」


課長からの通達を聞いた静が、大喜びで退勤して行ったあと、彩は厳しい表情で、課長に告げた。


「でも要望していた人員補充も、今のところ、なしのつぶてだし、秋のピークシーズンを迎えるに当たって、このままじゃ厳しいからね。」


課長の答えは、彩にも予想できていた。


「彩は、静のどの辺が不安なの?」


そう尋ねられた彩は


「今の静は、私がプランナ-になった時とは比べ物にならないくらい、出来ると思います。新人とは思えないくらいです。それに私に付いて、私の仕事ぶりを見て、あんた程度の仕事なら、いつでもできると自信を持つのも、別に構いません。自分に自信を持つことは大切ですから。でも・・・。」


と答えて、一瞬ためらったように言葉を切ったが、すぐに


「自分に自信を持ちすぎる、自分を疑うことを知らないって、怖いと思います。」


と続けた。


「彩・・・。」


その言葉に、驚いたように、課長は彩を見た。


しかし結局、課長の判断は変わらなかった。


「彩さん、今までありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」


翌日、とりあえず殊勝な表情で、そう言って来た静に


「私は静にとって、いい教育担当だったかどうかはわからないけど、出来る限りのことをあなたに伝えたつもり。それをあなたがどう受け止め、どうこれからに活かしてくれるは、あなたが決めることだから。」


と彩は答える。


「これからは、先輩後輩の差はあっても、同じプランナ-だからね。ライバルといえばライバル、でも仲間でもある。もしなにかあったら、遠慮なく相談して。」


「はい、ありがとうございます。」


そう言って頭を下げた静だが、自分の思いが、どこまで伝わったのだろうかは、彩には大いに疑問で、思わずそっと、ため息を吐いてしまっていた。
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