Far away ~いつまでも、君を・・・~
8月は、ブライダル業界はいわゆる閑散期で、挙式数は減り、各施設は大型のフェアを開催して、新規顧客獲得に力を注ぐ。


ホテルベイサイドシティでも、旧盆明けに年に2回の「スペシャルフェア」が予定されており、その準備が進められている。


静が独り立ちし、教育担当の重責からは解放されたが、先輩3人が抜けた今の陣容で、彩の立場が以前より重くなったのは、言うまでもない。


結果、去年初めて参加し、楽しい時間を過ごした高校弓道部のOB・OG会の参加は諦めるしかなかった。


(千夏ちゃんに直接お疲れ様って言えないのは残念だけど、今回は遥もマチヒロも斗真先輩も由理佳さんも欠席みたいだから、仕方ないな。)


先日オメデタがわかった遥は3ヶ月目に入り、悪阻がかなり重いそう。そんな妻を気遣って、町田も欠席。


由理佳は長期出張の真っ只中で、斗真もいろいろ多忙のようだ。


斗真とは、あれ以来会っていない。独立や由理佳とのことはどうなったのだろう?気にはなるが、彩も彼らのことをあれこれ詮索している暇はなかった。


不安だった静の仕事ぶりも、まずは無難に立ち上がったようだ。


初めて1人で新規問い合わせ客に対応した時は、功を焦って、強引な営業をしないか、ヒヤヒヤしていたが


「正直、メチャクチャ緊張しました。」


と後で告白して来たように、無難な応対に終始するのが精一杯だったようだ。


「最初は誰だって緊張するのが当たり前だよ。とにかくまずは、マニュアルに沿って、キチンと式場内を案内して、お客様からのお問い合わせに正確にお答えする。それが出来れば、十分だよ。」


「はい、ありがとうございます。」


彩の言葉に、ホッとした表情で頷いた静は、新人らしい初々しさを感じさせた。


またスペシャルフェアの準備では、物怖じせず、積極的に企画、イベントを提案して来た。


その中には、いかにも頭でっかちな机上の空論的なものも含まれてはいたが


「いいじゃない。」


「それ、面白そうだね。」


と課長や先輩たちに言わせるものもあった。


(私がちょっと色眼鏡で、静を見てた部分もあるのかな。)


彩はそんな自省の思いと共に、静の仕事ぶりを見つめていた。
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