Far away ~いつまでも、君を・・・~
「頭の固い人のお陰で、大切な成約を1件取り逃がしました。」


静が聞こえよがしに、文句を言ってるのは、まだ我慢出来たが


「こうなってみると、静の言ってたことの方が正解だったってことだね。」


と課長がため息交じりに愚痴っているのを聞いた時には、


(これって、私が間違ってたってこと・・・?)


確かに結果として、成約を2件失った形になってしまったが、自分の言ったことは絶対に正しかったはずだ。それを静だけではなく、課長までが結果論で否定してきたことが、さすがに彩はショックだった。


そして、静はこれ以降、新人らしからぬ強引な営業を見せるようになった。かつて、彩の接客を「消極的」と批判したこともある静。


実際独り立ちした後は、思うところがあったのか、むしろ彩流の接客を心がけていたようだったが、彩に反発を覚えてからは一転、あなたとは違うやり方で、あなたより成績を上げて見せると、かなり肩肘を張った態度を見せるようになって行った。


「あの子、新入社員なんですよね?とてもそうは見えませんね。」


ある日、呆れ顔で彩に声を掛けて来たのは、入社間もない、松下美由紀だった。


「すみません。なんか松下さんにもひどい態度とってるみたいで。」


年齢もキャリアも遥かに上のはずの松下に対しても、ブランクの長い契約社員ということで、静は見下した態度をとっていた。静の教育担当として、彩は申し訳ない思いでいっぱいであった。


「廣瀬さんのせいではありませんよ。気にしないで下さい。」


そう言って、柔らかい笑みを浮かべた松下は


「私も以前の職場でも、上司が成績にうるさく、随分強引なこともやらされましたが、うまくいかないどころか、下手をすればクレ-ムになってしまうことの方が多かった気がします。」


松下の言葉に、彩は大いに頷けたのだが、今の静が、自分の言うことに耳を傾けるとは思えなかった。


内心、ため息をつきながら、その日退勤した彩が、駅に向かって歩いていると。携帯が鳴り出した。


ディスプレイを確認して、急いで電話に出る。


「はい、もしもし。」


『廣瀬、久しぶり。元気だったか?』


闊達な斗真の声が響いて来た。
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