Far away ~いつまでも、君を・・・~
翌日午前10時。


彩の姿は、自宅最寄り駅のターミナルエリアにあった。チラリと腕時計に目をやり、すぐに車が進入してくる方向に視線を向けた彼女の表情は緊張を隠せない。


「廣瀬。」


すると、予期せぬ方向、自分の背後から彼女を呼ぶ声が。ハッとして振り向いた彩の視線に


「お待たせ。すまん、思ったより道が混んでて。今日が平日で休みの日と混み方違うの、少し甘く見てた。」


そう言って、軽く頭を下げる斗真の姿があった。


「いえ、とんでもありません。」


慌てたように、首を振る彩。


「それに、車停めるとこなくて、少し離れたコインパ-キングに置いて来たから余計、遅くなってしまった。高校の頃、時間厳守を部員にうるさく言ってたくせに、面目ない。」


済まなそうに続ける先輩に


「そんな、遅れたって言っても、ほんの数分ですし、全然大丈夫です。それより、今日は誘っていただいてありがとうございます。」


彩は、ペコリと頭を下げた。すると


「懐かしいな。」


「えっ?」


「部活で、ちょっとアドバイスすると、廣瀬はそうやって、ペコンと頭を下げてくれた。それ見て、可愛いななんて思ってたのを思い出した。」


柔らかな笑顔で、そんなことを言う斗真に、彩は思わず固まる。


「でも当たり前だけど、廣瀬はあの頃の廣瀬じゃない。」


そう言って、ふわふわ素材のニットのトップスに、タイトスカ-トに身を包んでいる彩の姿をしみじみと眺めた。


「考えてみたら、長い付き合いだけど、お前の私服姿って、あんまり見たことないから・・・ちょっとドキドキしちまった。」


「先輩・・・。」


「さ、とりあえず行こう。」


照れ臭げにそう言って、クルリと背を向けて歩き出す斗真。


(なんで急にそんなこと言い出すの?ドキドキさせられてるのは、こっちの方ですよ・・・。)


斗真の後ろ姿に言い返すと、彩も歩き出した。


数分歩いて、彩は斗真に勧められるままに、助手席に身を滑り込ませる。車には詳しくない彩だが、それでも乗り込んだ車種は、自分たちの世代が乗る車より、ワングレ-ド上のクラスに見受けられた。


「出発しよう。」


運転席の斗真にそう声を掛けられた彩は、お願いしますと言うように、コクリと頷いた。
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