Far away ~いつまでも、君を・・・~
昨夜、電話を掛けて来た斗真は


『明日、仕事休みか?』


といきなり聞いて来た。


「はい。」


頷いた彩に


『じゃ、突然だけど、明日一緒にドライブ行かないか?』


畳み掛けるように斗真は言う。


「えっ?」


それは確かに突然のお誘い。驚いて言葉を失う彩。


『明日、急遽代休になってさ。天気もよさそうだし、どっか行きてぇなって思ったら、急に廣瀬の顔が浮かんで来てさ。』


「斗真先輩・・・。」


『もし何も予定がなかったら、是非よろしく!』


その斗真の言葉に息を呑み、一瞬、由理佳の表情が瞼の裏に浮かんだが


「わかりました、よろしくお願いします。」


次の瞬間、自分でもビックリするくらい、彩は躊躇うことなく答えていた。


そして今、かつての憧れの先輩と2人きり。真剣な表情でハンドルを握る斗真の横顔をそっと眺める。


自分がデートに誘わるなんて、想定もしていなかったから、さっき斗真に褒められた服装も、他に着て来られそうなものがなかったというのが現実。だいたい男子と2人きりのドライブなんて、この齢になるまで経験もない。これまでの人生の中で唯一、彼氏といえる存在だった大地とも、なかなか時間が合わず、ドライブデ-トは出来ずじまいだった。


(なんで、こんなことになってるんだろう・・・。)


彩はこの状況に、今更ながら戸惑っている。


「廣瀬。」


そこへ先輩が自分を呼ぶ声がして、彩はハッと我に返る。


「本当に悪かったな。」


「えっ?」


「突然、誘っちゃって。迷惑だったか?」


そんなことを言われて


「そんなこと絶対ありません!」


彩は慌てたように、大きくかぶりを振る。


「ビックリしましたけど、でも嬉しかったです。」


「じゃ、もう少し楽しそうな顔してくれよ。さっきっから、ニコリともしてくんねぇじゃん。」


「それは・・・緊張してるからです。」


「なんで?」


「だって…先輩に誘っていただけるなんて、本当に夢にも思ってなかったですから。先輩にしてみれば、由理佳さんの代わりに、平日に暇してそうな後輩を誘っただけなんでしょうけど。」


「由理佳は関係ないだろ。」


「えっ?」


「それに、誰でもよかったわけでもない。浮かんだ顔がお前だったから・・・廣瀬だったから誘ってみようと思ったんだ。」


チラリと彩を見て、笑みを浮かべた斗真は、すぐに視線を前に戻すと


「だから、それをお前が嬉しいと思ってくれてるなら、嬉しそうな顔しててくれ。その方が俺も・・・嬉しいから。」


そう言って、また笑う。


(だから、そんなことばっかり言われるから、ますます緊張しちゃうんだって・・・。)


その笑顔に思わずドキリとしながら、彩は内心抗議の声を上げていた。
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