Far away ~いつまでも、君を・・・~
出会ってから気が付けば11年。しかし、同じ部活で毎日のように顔を合わせていた期間は、せいぜい最初の数ヶ月くらい。それ以降は、そんなに頻繁に連絡を取り合っていたわけでもない。


ましてこんな風に、2人きりで過ごす時間などなかった。斗真には由理佳という恋人がいたから、そんな機会が訪れることがあるなんて、彩は考えてみたこともなかった。


相変わらず、緊張気味に座ってる彩は


「仕事は忙しいのか?」


斗真からそんなことを聞かれ、フッと表情を曇らせた。でもすぐに気を取り直すと


「ええ、お陰様で。相変わらず、人の幸せのお手伝いばかりしてます。」


と冗談交じりに答える。だが


「どうした?何かあったのか?」


運転中で、前を見ているはずなのに、斗真は彩の微かな表情の変化に気付いたようだった。


「いえ・・・。」


と彩は答える。せっかくの楽しい雰囲気を、仕事の愚痴で壊したくはなかった。だが


「遠慮するな。俺が仕事上で、何かお前の手助けを出来るわけじゃないけど、話くらいは聞ける。胸につかえてるものを吐き出すだけでも、違うもんだぜ。」


そう言って笑う斗真に吸い込まれるように、彩は話し出していた。先日、ある指摘をしたことから、結果として自分が教育を担当していた新人の成約を妨害するような形になったこと。もともと研修中から、その新人とはあまりうまくいってなかったが、それ以来、露骨に反抗的な態度を取られるようになり、それを上司もたしなめるどころか、むしろその新人の肩を持つような様子を見せていて、正直落ち込んでいること・・・。


「気にし過ぎなんですよね。大したことじゃないって、自分でもわかってるんです。すみません。」


話しているうちに、斗真に申し訳なくなって、彩は話を打ち切った。だが


「大変だったな。」


斗真はそう言って一瞬、彩の顔を見た。


「ビジネスって綺麗事だけじゃ済まない。俺の仕事なんて、現ナマむき出しでやり取りしてるようなもんだから、本当にここじゃ話せないようなことがたくさんあるんだ。」


「・・・。」


「それでも超えちゃいけない、踏み外しちゃいけない一線って絶対にある。今回のことだって、廣瀬が黙ってたら、それで会社のプラスになったのかもしれない。でもそれじゃ、廣瀬が廣瀬じゃなくなっちまう。そうだろ?」


そして斗真は、また彩の顔を見ると、暖かい笑みを送ると


「それにさ、だいたい先約優先、そんなのビジネスどころか、人として当然のことじゃねぇか。」


斗真はそう言い切った。


「先輩・・・ありがとうございます。」


その斗真の言葉が嬉しくて、彩が思わず頭を下げると


「やっと笑ってくれたな。」


「えっ?」


「これで今日、お前を誘った甲斐があった。」


そう言った斗真は、本当に嬉しそうに笑った。
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