Far away ~いつまでも、君を・・・~
水族館を出ると、2人の目の前には、砂浜が広がっていた。


9月の太陽は、まもなく海岸線にその姿を没しようとしていた。灼熱の暑さの時期は、既に過ぎ、心地よい潮風が身体を通り過ぎて行く中、彩と斗真は肩を並べて、ゆっくりと砂浜を歩いて行く。


やがて、ふと足を止めた斗真は、海の方を向く。視線の先には、鮮やかな夕陽があり、つられたように彩も彼の横に並んで、海を見る。


「綺麗だな・・・。」


「はい・・・。」


ポツリとそんなことを言い合って、しばし夕陽を眺めていた2人だったが、やがて


「廣瀬。」


そう呼ばれて、彩は隣の先輩に視線を向けた。


「はい。」


「今日、急に思い立って、お前を誘ったようなことを言ったが、実は・・・嘘だ。」


「えっ?」


「今日、お前が休みなのは知っていた。だから、それに合わせて俺も休みを取ったんだ。お前にどうしても聞いて欲しいことがあったから。」


そう言って、自分を見た斗真の視線が、あまりにも真剣で、彩は息を呑んだ。


「こんなことを今更・・・急に言われても、驚くだろうけど・・・廣瀬。」


「はい・・・。」


一体、斗真がなにを言い出すのか、まるで見当がつかず、彩は緊張で身を固くする。


「俺、お前のことが・・・好きなんだ。」


「はぁ?」


思わず間の抜けた声を出して、自分を見つめて来る後輩に


「お前のことが・・・前からずっと好きだったんだ。」


念を押すように声を励ます斗真。


(前から・・・ずっと・・・。)


茫然としながら、斗真の言葉を心の中で繰り返して、彩はハッと我に返った。


「先輩、前からずっとって、どういうことですか?」


思わず声を荒げるように聞いた彩に


「そのままの意味だ。俺は出会った時から、廣瀬が好きだったんだ。」


言い切る斗真。


「冗談もほとほどにして下さい。先輩には由理佳さんが・・・。」


「そう、由理佳がいた。だから・・・今まで言えずにいたんだ。」


「そんな・・・。」


それはあまりに衝撃的な告白、衝撃的な言葉。いつの間にか、夕陽は完全に海岸線の彼方に姿を消し、周囲に人の姿はなく、波の音だけが、向かい合う2人を包んでいた。
< 218 / 353 >

この作品をシェア

pagetop