Far away ~いつまでも、君を・・・~
そして始まった合宿。学校に集合してから、バスで現地へ。高原の爽やかな気候が、彩たちを出迎えた。


のんびりする間もなく、宿舎に荷物を置き、着替えて、隣接する体育館へ。


主将の彩が、合宿の成功と無事を祈って、的に矢を通す矢渡しと呼ばれる儀式を行って、練習がスタ-ト。


2年生はもちろん、1年生達も黙々と、弓を引き、矢を射る。ただ射るだけではない、射法八節と称される射の基本動作を、蔑ろにすることは許されない。その為にも、精神を集中させ、的の前に立つ必要がある。


まだまだ動きのぎこちない1年生に顧問の児玉だけでなく、彩、遥、町田の3人からも声が飛ぶ。強豪校になると、順番待ちの間の私語も禁止されている学校もある。颯天高では、そこまでの厳しさはないが、それでも、緊張した空気が、体育館に漂う。


尚輝も真剣に練習をする。12名いた同級生は2名が脱落し、10名になってしまった。そのうち男子は3名しかいない。3年生が抜けたこともあり、拮抗していた男女の部員数は、女子上位に傾いていた。


「本郷先輩が卒業して以降、颯天高弓道部は男子が女子に押され気味だ。別に対抗意識を煽るつもりはないけど、でも俺たち2年はもちろん、数は少ないが1年の連中にも奮起してもらわないと。」


そう意気込んでいた町田が


「弓道はただの的当てゲ-ムじゃない。所作をいい加減にするな。今は時間が掛かってもいい、正確な所作を意識しろ。」


と、積極的にみんなに声を掛ける。


「はい。」


(なかなか難しいもんだ。)


体力的には、決してきついスポ-ツではない。しかし、武道である弓道は、精神修養の側面が強いことに、尚輝も気付き始めている。


そう思いながら、順番待ちの列に並んだ尚輝の目に、的の前に立った彩の姿が映る。


(主将・・・。)


その姿を見惚れるように見つめていると、彼女が射った矢は吸い込まれるように、的に的中する。


「主将、素敵・・・。」


思わず、前にいた女子がそう漏らした言葉。全く同感だった。


(町田さんには悪いけど、俺はやっぱり個人的な感情はもちろん、選手としても彩先輩に憧れるな・・・。)


そんな思いで、彩を見つめていると、不意に視線が合う。思わず、笑顔を送った尚輝に、彩はプイと視線を外して、列に向かった。
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