Far away ~いつまでも、君を・・・~
翌日、出勤した彩は、担当の式に向けての、関係部署との打ち合わせ、取引先への必要備品の発注、そして挙式予定者との打ち合わせも1件あり、精力的に動き回った。


土日祝日とは比べ物にならないが、平日のウェディングプランナ-もやることは決して少なくない。


「よかった。」


そんな彩に、松下が声を掛けて来た。


「なにがですか?」


「廣瀬さん、元気になったから。」


「そうですか?でも確かに昨日1日リフレッシュして、ちょっと吹っ切れました。私は私でしかないから、私の出来ること、私のやり方で全力でやって行こうって。」


「そうですか、それが正解ですよ。結果がいつも出せれば、それは一番いいですけど、上手くいく時ばかりじゃないんで。自分を信じて行きましょう。」


「はい。」


松下の言葉に、彩は笑顔で頷いた。


(斗真先輩のお陰だな・・・。)


ちょっと自信を失い掛けていた自分に


「それじゃ、廣瀬が廣瀬じゃなくなっちまう。」


そう諭してくれた先輩の言葉は嬉しかった。


だけど、その一方で、別の斗真の言葉もまた、彩の耳に甦って来る。


「俺は出会った時から、廣瀬が好きだったんだ。」


真剣なまなざしで、斗真にそう告げられた時、彩は正直耳を疑った。


彩は斗真が好きだった。斗真に憧れ、斗真に近付きたくて、それまで何の興味もなかった弓道部に入ったのだ。だけど、その憧れの人の横には、既に由理佳がいた。2人の間に入り込む隙間なんて、どこにも見つからなくて、やがて彩はその想いを、自分の胸の奥にしまい込んだ。それで仕方ないと思えたからだ。


なのに斗真は、本当はそんな由理佳より、自分の方が好きだったのだと言う。


(そんなわけない。今の斗真先輩は、由理佳さんと一時的に離れ離れになって、動揺してるだけ。意地を張ってるだけなんだ。だから、素直になって、由理佳さんの声を聞けば、ちゃんと2人は元通りになる。私が、あの言葉は聞かなかったことにすれば、それでいいんだよ。)


昨日、斗真と別れてから、ずっとそのことを考えていた彩は、そう自分の中で結論付けていた。


そして、その日の勤務が終わり、自宅近くの定食屋に立ち寄って、ロ-スかつ定食で、ガッツリ腹ごしらえした彩は満足な思いで、店を出た。


(さ、明日は土曜日、忙しくなるけど、がんばらなきゃ。)


エネルギ-充填を終え、足取りも軽く家路についた彩の耳に、スマホの着信音が聞こえて来る。


(誰だろう?)


と思いながら、ディスプレイに表示された名前を見た彩は、思わず息を呑んだ。
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