Far away ~いつまでも、君を・・・~
週末は担当の挙式が1件、他にも打ち合わせや接客も時間の許す限り、目一杯入っている。多忙なスケジュ-ルを彩は精力的にこなした。


「どうだった、先ほどの見学のお客様の手応えは?」


事務所に戻ると、待ちかねたように課長が声を掛けて来る。


「いけると思います。この後、別の式場も回られる予定だそうですけど、たぶん大丈夫です。」


「仮予約は?」


「まだです。」


「そんだけ手応えがあったら、仮予約くらい取れたでしょ。」


「おすすめはしましたが、今日はいいということで。」


「そこはもう一押ししてよ。」


不満気に言う課長に、すみませんと頭を下げると、彩はデスクに戻る。


「静はさっきの接客、しっかり仮予約取ってたよ。彩も後輩に負けてないでよ。」


背中からそんな声が聞こえて来て、彩は内心ため息をつく。


彩は大風呂敷を広げるタイプではない。彼女が「いける」と言った時は、かなりの確率で成約に結びついている。課長もそれはわかっているはずだが、今の彼女は例え仮の状態でも実際の「成約1」が欲しいのだろう。


人員不足もあって、上期は昨比で成約数を落としてしまったホテルベイサイドシティブライダル課。着任まもなく1年の課長が立場上、焦るのはわかるが、かつてのチ-フプランナ-時代は強引な成約誘導にむしろ批判的だったはずだ。


(立場が変われば、言うことも変わるのは仕方ないけど・・・ね。)


それにしても、静の成約獲得数は、独り立ちしてまもない新人プランナ-としては、凄いと彩も正直に思う。だがその一方で、やはりその強引な営業スタイルに不満やクレ-ムに近い声が、客からちらほら聞こえて来ているのも事実だ。


(今の静は怖いもの知らずの積極性が、いい方に出てるということなんだよな・・・。)


危うさを感じなくはないが、そんな彼女の勢いを認めないわけにはいかなかった。


こうして慌ただしい週末が過ぎて行き、その締めの各種報告書類をまとめ終わった彩は、オフィス内の時計に目をやった。


(そろそろだな。)


パソコンをシャットダウンした彩は席を立つと


「今日はこれで失礼します。お疲れ様でした。」


周囲に挨拶して、オフィスを出る。明日は休日、そして今夜はこれから約束があった。
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