Far away ~いつまでも、君を・・・~
練習は、夕方までみっちりと行われる。終了後は入浴、夕食を経て、ようやく自由時間になるが、就寝時間が10時では、たいして時間もない。男女間の部屋の行き来は禁止されているが、大広間が貸し切りになっていて、そこでゲ-ムやおしゃべりなどをして、部員同士、学年も超えて親交を深める場となる。


厳しい合宿の合間の、憩いのひと時。それはまた旅の空の下ということもあり、また練習から解放されて、羽を伸ばせる時間でもある。


男女一体の部活ということもあって、一般的に部内恋愛が多いと言われる弓道部。普段の姿と弓を引く時のギャップ萌えが多いからという説もある。この合宿が、そんなキッカケとなる例はやっぱり多いらしい。


尚輝も、そんなチャンスを期待していたのだが、お目当てのヒロインは、大広間には現れない。副将達と、明日の練習の打ち合わせらしい。


(まだまだ先は長い、チャンスはきっとある。)


尚輝は、そう自分に言い聞かせる。


だが2日目も朝から練習。なかなか彩と個人的な接触をする機会もなく、焦りは募る。


3日目、この日は練習が終わると、夕食はバ-ベキュ-。更にはそのあとに肝試し大会が予定されており、尚輝の期待は膨らむ。


しかし練習は真面目に。短期間ではあるが、集中して練習した成果で、自分も同級生達も、上達していることが、はっきり自覚できる。


「いいじゃない。初日とは見違えるくらいだよ。」


彩からそう声を掛けられて


「ありがとうございます!」


尚輝は舞い上がる。


「その調子で頼むよ、尚輝をその気にさせるのは、その手に限る。」


近寄ってきて、コソッとそんなことを言って来た町田に


「バカ。」


と一言言って、彩はその場を離れる。


そうこうしているうちに、昼休憩の時間が近付いて来る。そこへ


「みんな、お疲れさん。」


と言いながら、顔を出した顔に、尚輝は見覚えがあった。


「本郷。」


そう声を掛けた児玉に


「先生、失礼します。」


と一礼した斗真は


「ちわっす。」


と大声で挨拶して来る後輩たちに、爽やかな笑顔を向けて、中に入って来る。


(斗真先輩・・・。)


その姿に、彩の心は乱れる。
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