Far away ~いつまでも、君を・・・~
この前、このステ-キハウスを訪れた時はお一人様。それから約3か月、こんな短期間で再訪、それも恋人同伴ですることになるとは、さすがに彩も思わなかった。


ここの肉の味は、充分にわかっていたはずなのに、彼氏と一緒だと、また一段と美味しさが増したような気がする。


「そっか、この前は斗真さんの密会を目撃して、動揺して、味がよくわかんなかったから余計に美味しく感じるんだ。」


「由理佳に報告しなきゃってか?」


「はい、なんか探偵になった気分でした。」


デザ-トと食後のコーヒ-を楽しみながら、彩は斗真とそんな話をしている。俺たち、カレカノなんだから、もうタメ口でいいんだぞと、斗真からは言われているのだが、長年の習性はなかなかすぐには抜けない。


(斗真さん呼びに慣れるのが、まずは先決だもんね。)


実は斗真からは、由理佳がそうしてたように、呼び捨てにしてくれとも言われているのだが、とても恐れ多くて、ハードルは高い。


「でも今日は、私の為に本当に無理されてませんか?」


彩は表情を改める。


「夏休みの時期は過ぎてしまいましたし、年末年始のお休みが来るまでは、今日みたいな形でしか、お会いできないと思うんで・・・・。」


この人と違った生活サイクルは、彩にとっては就職してから、ずっと悩みの種だった。


「大丈夫だよ。それは承知でお前に告ったんだから。時間は当面は俺の方でなんとか作るし、この前みたいに、たまには平日休むことも出来る。それに、独立すれば、会社にギチギチに縛り付けられることもなくなるから。」


彩を安心させるように、斗真は答える。


「独立の準備は進んでるんですか?」


「ああ。一応年内を目途にしようと、仲間たちとは話している。」


「そうなんですか?」


予想していたより、話が進んでいることに、彩は驚く。


「やっぱり彩も不安か?」


「いえ。不安以前に、正直なことを言えば、私、全く斗真さんのお仕事のこと、わかってないんで・・・。」


「そっか、確かにな。独立が絶対に成功する保証なんかないのは、確かだけど、俺だってそんな無謀なことをするつもりはない。まして、あやふやなものに身を投じようとしている時に、お前を口説くような無責任な男じゃないつもりだぜ。」


「はい、それはわかってます。」


「ありがとう。もう少ししたら、彩にはキチンと説明するから、待っててくれ。」


「はい。」


自分の言葉に、彩は素直に頷いてくれたのを見て、斗真は嬉しそうだった。
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