Far away ~いつまでも、君を・・・~
「私が間違ってるんですかね?」


そう言って、ため息を吐く彩。


週末の仕事が終わり、21時過ぎにホテルを出た彩を斗真が出迎えてくれた。そんな彼に笑顔で駆け寄った彩は、すぐに車上の人に。この時間でも開いているカフェレストランを把握してくれていて、迷うことなく彼女をそこに誘ってくれた斗真と食事を楽しんで、約2時間後。


再び、恋人の愛車の助手席に納まった彩は、彼の運転で帰宅の途に着いていた。


「前にも言ったと思うけど、彩は彩でいるべきだし、いて欲しいな。俺としては。」


励ますように斗真は優しい口調でそう言うが


「斗真さんがそう言って下さるのは、素直に嬉しいですけど・・・でも、私も正直に言えば、今のなんか自分だけが浮いてるような、職場の雰囲気はいたたまれないものがありますし、もう少し大人の対応をした方がいいのかななんて、考えちゃいます。」


彩はやや口を尖らせながら言ってしまったあと


「すみません、せっかくのデートで、また私にこんな話を・・・。」


ハッとした彩は、申し訳なさそうに下を向く。そんな彩の様子をチラッと横目で見た斗真は


「彩。」


と前を向いたまま、呼び掛けた。


「はい。」


「俺が今の会社を辞めて、独立しようと思った理由はもちろん野心もその1つだけど、他にもある。」


その言葉に、彩は斗真の横顔を見つめる。


「少なくても民間企業でノルマやガントがないなんて所を探す方が難しいと思うが、俺の今いるのは、その最たる業界であることは間違いない。」


「・・・。」


「その中で生き残って行く為に、俺たち証券マンは数字を追い求め、数字に追いまくられる日々だ。俺たちの仕事は顧客に株の売買をさせて、その手数料をいただいて利潤を上げることだ。言うまでもなく、顧客は儲ける為に株を売買する。その目的に合致するように、俺たちもアドバイスし、動いているつもりだが、相場は生き物だ。当然うまく行くケースばかりじゃない。まして、俺たちが、顧客の為を第一に動いてるかと言われれば、はいと自信を持って頷くことは、少なくても俺には正直出来ない。」


「・・・。」


「だが独立すれば、少なくてもそう言った会社のしがらみや縛りからは解放される。俺は今は株屋だが、今度は他の金融商品を勧める事も出来るようになる。もっと純粋に、アドバイザ-として顧客と向き合うことが出来るはずなんだ。」


「斗真さん・・・。」
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