Far away ~いつまでも、君を・・・~
第三章

その日、列車を降り立った彩を出迎えたのは灼熱の太陽と、そこから降り注ぐ陽がもたらす凄まじい熱気だった。


(そうだった、これが海なし県、内陸の夏だ・・・。)


都会とはまた厳しさが一味違う暑さに、一瞬顔をしかめながら、だが彩は懐かしさを覚えていた。


(一昨年、帰って来た時には、そんなこと全然思わなかったんだけどな・・・。)


心の中で一人ごちた彩は、ショルダ-バックを肩に掛け直すと、ゆっくりと歩き出した。


改札を出て、勝手知ったる道を歩む彩。この道をかつて彼女は3年間通った。今日のように暑い日も、逆に遠くに仰ぐ山々から吹き降ろす風に震える日、雨の日も抜けるような快晴の日もあった。


今のように一人の時もあったが、大部分の時は、遥を始めとした級友や部活の仲間たちと賑やかにこのだらだら坂を上った。それからもう10年近い月日が流れたことになる。


(さすがに昨日のことのよう、とは思えないけど、10年経っちゃったとも思えないよね・・・。)


そんなことを考えながら、歩くこと約15分。彩は目的地の門に前に立った。


(2年ぶり・・・ううん1年半ぶり、か。)


『県立颯天高校』と書かれた看板と門構えは、あのころと全く変わりがない。それを改めて確認したように頷いた彩は、構内に足を踏み入れた。


「おはようございます!」


彩が歩みを進めていると、明るい挨拶の声が響く。見れば受付となっている長テーブルの後ろに、3人の弓道着姿の男女が、にこやかに彩を出迎えてくれている。


「おはようございます。」


笑顔を返した彩に


「本日はご来校ありがとうございます。卒業期とお名前をお願いします。」


真ん中の少女が告げる。恐らく彼女が現在の主将なのだろう、その姿に既視感を覚える。かつては自分もそうしたし、前回初めてOB・OG会に参加した時には、葉山千夏が同じように出迎えてくれた。あれから2年、その千夏は今日は自分と同じようにOGとして、この場を訪れるはずだ。


「第73期卒業生の廣瀬彩です、今日はよろしくお願いします。」


「こちらこそよろしくお願いします。受付が済みましたら更衣室で着換えていただいて、体育館に集合願います。」


「わかりました。」


彼女たちに答えて一礼した彩は、これまた勝手知ったる目的地を目指して、歩き出した。
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