Far away ~いつまでも、君を・・・~
試合形式は2年前と変わらず、1人体育館で2射、道場で1射の計3射。時折上がる歓声や笑い声は、本来の弓道の試合ではない状況で、一同に会したさまざまな年代のOBOGたちが、真剣な中にも、和やかな雰囲気で、弓の感触を楽しんでいるのが伝わって来る。


体育館の2射を1中で終えた彩は、遥たちと共に道場に向かった。1年半前の正月に千夏と弓を射って以来の道場に足を踏み入れ、正面の的が目に入った瞬間


(ここで私は初めてあの人と・・・。)


彩は思わず足を止めてしまった。


(あの時、ここにさえ来なければ・・・。)


今更そんなことを考えても仕方ないのに・・・胸が苦しくなるのを、彩はどうすることも出来ない。


「彩。」


彩の様子がおかしいことに気付き、心配して声を掛ける遥。その声にハッとしたように、彼女を振り返ると


(そうだよ。今更そんなことを考えたって始まらないんだよ。弓を持ったら、なにもかも忘れて真剣勝負って、尚輝と約束したじゃない。)


そう自分に言い聞かせた彩は


「ごめん、大丈夫。」


笑顔でそう言うと、前を向いた。


そして、審判役の現役部員に促されて、この日集まった7名の同期生の中の先陣として、彩は的前に立った。


この場所は弓道と自分のつながりの原点の場所。ここに立てば、どうしてもいろんなことが、走馬灯のように頭に浮かび、様々な青春の思い出が甦る。そしてそれはやがて、今の彩には1人の人物の顔にオーバ-ラップされてしまう。


浮かんで来てしまった涙を堪えようと、キュッと唇を噛み締め、彩は弓を構えるが、そんな精神状態で、結果を出せるほど、弓道は甘くない。放った矢は、まるで弓道を始めたばかりの頃のように、大きく外れて行く。


「彩・・・。」


その様子を後ろで見ていた遥は思わず息を呑み、他の同期生たちも言葉を失う。一瞬にして重くなった空気を感じながら、的に一礼した彩は、仲間達を振り返り


「みんな、ごめん。」


と言い残すと、彼らと目を合わせることなく、そのまま道場を後をしてしまう。


(ダメだな私は、弱過ぎる・・・。尚輝、私、集中出来なかった。ごめん・・・。)


せっかくの親善試合の楽しい雰囲気を壊してしまい、彩は後悔と申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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